“世代の枠を超える非コミュのバイブル”
中島義道『孤独について』(文春文庫)
中島義道『孤独について 生きることが困難な人々へ』は徹底した自分語りの書だ。語られるのは、どこまでも孤独な自分史である。読み始めてみると、まるで他人の粗を論い非難しているかのような口調に少し戸惑いを覚えるかもしれない。確かに、一見、世を拗ね、孤独を他人のせいにするかのような批判的描写が随所に見られる。著者のナイーブな精神を勘定に入れるにしても、それは自業自得ではないか、といいたくなるようなエピソードも散見される。そこで、ただ突っ込みを入れて思考停止してはいけない。その違和感こそが選択的孤独を理解する第一歩である。
封建的でエリート意識の強い両親の家系、夢追い人の父、その父に死ぬまで恨み言を吐き続ける母、無理解な教師たち、無邪気で無神経な級友たち、退屈な哲学の講義、助手の自分を執拗にいじめる大学教授…。とにかくその描写の辛辣さには遠慮がない。けれども、その舌鋒は、実は単に他人にだけ向けられたものではない。多くを学び、多くを思考することで、自らを含む人間の複雑さ、醜さ、虚栄心、ろくでもなさを著者は思い知る。虚栄心に満ち、自己顕示欲が強く、自己中心的で傲慢で惰弱な人間を描くとき、その中に自分が含まれることを十分に承知している。
そうした醜さをまるでないもののように振舞う「大人」たちに対して、著者はそれに気付かぬ振りをして社会的に振舞うことができない。汚く矮小なのはみんな同じだ。ただ、自分はその汚さを敏感に感じ取り、直視し続けるより他に生きる術を知らない。そういうものとして自分を規定する。そうである以上、表面を取り繕って社会人然として虚飾を生きることはできない。虚飾を捨てるということは、社会的であることを諦めるということだ。つまり、孤独を選択するということである。ならば積極的に選択すべきではないのか。それが自分を生かすことではないのか。
この本は、自分が真性の選択的非コミュたり得るかどうかの試金石といえる。
posted in 08.12.08 Mon
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