絲山秋子『ニート』(角川文庫)

絲山秋子『ニート』(角川文庫)絲山秋子『ニート』を読んだ。

タイトルだけを見て判断してはいけない本だと思う。この著者は決して類型を描いているわけではない。テレビで特集されるようなニートなんて出てこない。そういう疑念は捨てていい。ただ、世間的にはニートと呼ばれるのかもしれない、そういうどうしようもなく行き詰った生き方の男が出てくるだけだ。彼はまったく典型的なニートではない。その意味で、この作品に通り一遍のリアリティは希薄だ。こんな男の存在は簡単には想像も共感もできない。それを受け入れる女も然り。が、それを共感させる。この共感は性別を超える。いや、性別に限らずあらゆるカテゴライズを拒否している。

表題作の「ニート」とその後日談である「2+1」で描かれるふたりの関係性は、友人だとも恋人だともいい難い。ともすれば拾ってきた猫でも飼っているように見える。自立させたいのか、ペットにしたいのか、それすらも曖昧模糊としている。ドライなようでいて、実にウェットだ。だから、終わりのない物語の終わりが何も生まないのも当然である。「ベル・エポック」で描かれる友情もまた、そのありようは複雑だ。物理的な関係の断絶を予感させながら、内面的な繋がりは永遠に担保されている。そんなことを思わせる。「へたれ」は引用されている詩の印象が強すぎてなんともいえない。

おそらく最後の「愛なんかいらねー」は、収録作の中でも比較的衝撃度が強い。ただ、それは表面上扱われる性愛表現の故で、おそらく内容としてはかなり「ニート」に近い。アナザーサイドとでもいいたくなるような関係性が描かれている。そして、これもまたディテールによって共感が呼びさまされる。もちろん、スカトロもありかな、というような種類の共感ではない。彼女が彼を受容する、その心のありように共感するのである。そして、共感することがカタルシスに繋がらないのも、また、「ニート」に共通する感覚だと思う。ただ、やっぱりこんな男の存在は想像も共感も難しい。

いずれ、日常を切り取るようにして心のありようを切り取る、そういう作品なんだと思う。


【収録作品】
・「ニート」
・「ベル・エポック」
・「2+1」
・「へたれ」
・「愛なんかいらねー」

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