ランディ・パウシュ『最後の授業 ぼくの命があるうちに』(ランダムハウス講談社)

ランディ・パウシュ『最後の授業 ぼくの命があるうちに』(ランダムハウス講談社)ランディ・パウシュ『最後の授業 ぼくの命があるうちに』を読んだ。

内容自体は、実際に行われた講義の増補版といったところだ。講義の様子はYouTubでも見られる。最初に断っておくと、特に目新しい何かが書かれているわけではない。極一般的な「良いこと」がたくさん書かれている。そして、末期ガン患者による、という但し書きにもさしたるインパクトはない。よくある惹句にすぎない。それでもこの本が、或いは、講義の動画がこれだけ巷間に流布しているのは、著者のウィットに富んだキャラクターとプレゼンテーションの上手さによるところが大きいように思う。要するに、話が上手い。構成もいい。本当にオチまでよく考えられている。

あの秀逸なオチについては、まあ、実際に読んでもらうしかない。そして、そのオチによって「自己啓発本」としての凡庸さが瑕ではなくなる瞬間を体感して欲しい。否、凡庸だから役に立たないといっているのではない。そもそも人生を上手く生き抜く知恵みたいなものは、すでに散々っぱら出尽くしていて、凡庸でない人生訓を出せという方が無理である。つまり、大事なのは目新しさなんかではなく、見せ方なのである。そして、このランディ・パウシュという人は、その点とても自覚的だ。病気の話はしない。けれども、最高の演出を支えるのはやっぱり命の短さなのである。

演出というのは、何かを印象付けるためにするものだ。本書の場合は、著者のいう「頭のフェイント」によって演出はなされる。そして、ここに仕掛けられた第2のフェイントによって、彼の言葉はとても効果的に印象付けられる。同時に「分かり切ったことばっかいいやがって」とか「それができりゃ苦労はねぇ」とか「なんて上目線」とかいうようなネガティブなコメントをも封印する。鮮やかとしかいいようがない。最後の最後で、これまでの話を一旦は素直に受け止めようという気持ちにさせる。説得せずに人の意識を変えて見せる。まさに希代のプレゼンテーターである。

これは単なる成功本でも、お涙頂戴の末期ガン本でもない。いわば公開された遺書である。


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ランディ・パウシュ『最後の授業 ぼくの命があるうちに』(ランダムハウス講談社)


【アルファブロガーによる同書の書評】
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