浦賀和宏『地球人類最後の事件』(講談社ノベルス)

浦賀和宏『地球人類最後の事件』(講談社ノベルス)浦賀和宏『地球人類最後の事件』を読んだ。

やってくれる。ここまでやるのが浦賀和宏という作家なんだといわざるを得ない。テクニックがどうとかいう話ではない。こういう主人公を書こうと、普通は思わない。まあ、作家が普通でどうする、という話はある。それにしても、だ。このおぞましい感覚は、非日常的なグロテスクのせいではない。恐らくは、心の奥底のリアルを引きずり出される嫌悪のせいだ。もうそれ以上暴かないでくれ、と目を背けたくなる現実的なグロテスクのせいだ。主人公八木剛士の変貌は一切幸福に結びつかない。イジメっ子に復讐を果たし、童貞も捨てた。強くなった。少なくとも外面的には。

シリーズ最終巻を次作に控え、八木は最狂最悪の墓穴を掘る。本作のラストは、ほとんど考え得る限り最低のエピソードで締め括られる。八木剛士というキモメンでキモオタで非モテで非コミュなイジメられっ子の、屈折に屈折を重ねた思考が八木をして破滅的な愚行に走らせる。凶行に走らせる。それはほとんどデジャヴのように感じられる。いくつかの現実の事件を想起させる。もちろん、秋葉原の加藤某に八木の思考を重ねるような短絡は危険且つナンセンスだろう。恐ろしいのは、そうできるくらいにこの作品に描かれる生き地獄がリアリティを持っているという事実だ。

リアリティだけではない。シンパシーすら感じる人が少なくないのではないか。破滅に向かう不健全な精神に共感する。そういう愉しみ方をする人が一定数いるんじゃないか。八木のような主人公は、本来、不快な存在のはずだ。暴力によってイジメられっ子から卒業するまではいい。否、好くはないかもしれないけれど、そういうエンターテイメントは過去にも無数にあった。たいていはそれで溜飲を下げてハッピーエンドとなる。けれども、浦賀和宏はそんな温い話は書かない。暴力によって得た自由は、より八木を孤独にする。更なる悲劇を産めとばかりに八木を追い詰める。

このグロテスクな顛末が最終巻にどう繋がるのか。願わくば彼の上に光の射さんことを。


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浦賀和宏『地球人類最後の事件』(講談社ノベルス)

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はじめまして。
最終巻読まれました?(ネタばれしませんよ)じつはlylycoさんの書評の影響で浦賀和弘やメフィスト賞作家の本をたくさん読んだのです。ありがとうございました。たのしいです。このシリーズは本当に毎回たのしかった。メフィスト賞作家の作品の中でいちばん人には勧められんですが・・・。

> tunaさん
最終巻、もちろん読みました。本は相変わらずのマイペースで読んでいるのですが、感想を書くのが滞ってしまっていて…。ともあれ、このブログがきっかけで楽しめる本に出会えたのなら、ぼくも嬉しいです。ともあれ、確かにこのシリーズはちょっと人には勧めにくいですね。そんなところがまた魅力なんですけれども。

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