米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』(創元推理文庫)

米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』(創元推理文庫)米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』を読んだ。

前作『春期限定いちごタルト事件』は丸ごと前振りだったんじゃないか。そう思わせるくらいに、この続編は良くできている。その辺りの評価は世評通りだと思う。長編にしたのも良かったのだろう。十分な伏線とその回収の手際は目を瞠るほどだ。

それにしても、ここまで達者な書き手だとは思わなかった。

もちろん、前作だって続編に期待する程度には楽しめたのだけれど、ライトノベル系ということで負の先入観があったのかもしれない。それに、主人公ふたりのいかにもそちら寄りなキャラクターに多少気を殺がれてもいたのだろう。

そんな負の感情は今作で完全に払拭された。

まず驚かされるのが第1章で展開される主人公ふたりの息詰まる攻防だ。これが絶品スウィーツを巡る倒叙ミステリという、なんとも人を食った趣向である。繰り広げられるのは、非日常の大事件でも手に汗握る追跡劇でもない。

ただただケーキを食べた事実を隠蔽するという、それだけのエピソードである。これがすこぶる面白い。しかも、主役ふたりの関係をよく説明してもいる。巧い。サスペンスを生み出すのは、ひとえに話者の手腕なんだということがよくわかる。

この章単体でも短篇として十分に楽しめるクオリティである。と思ったら、どうやら実際に単体で雑誌に掲載されたものらしい。なるほど。それでいて、後続の章にがっちり組み込まれているのだから生半の構成力ではない。

以降、章毎に断片的な挿話が語られ、しかも、少しずつ登場人物が絡まりあっていく。その「意思」が明かされるとき、京極夏彦のファンなら思わず「あなたが―蜘蛛だったのですね」といいたくなること請け合いだ。

そんな懐かしい名台詞はさておき、今回ももちろん爽やかとは対極にあるオチである。タイトルも表紙の絵も文体から受ける印象すらも裏切っていること夥しい。ただし、この作品ではこれが許せてしまう。むしろ、そこに愉しみを見出すべきなのだ。

前作のように小さくまとまらない、力のある1冊だった。

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comment - コメント

TBありがとうございます。

この米澤穂信という人はデビュー作の頃から独特の雰囲気が面白い人だと思っていましたが、作を重ねるごとに筆力を増して来ていて、今後の作品が楽しみだと思っていたところにこのシリーズ。
期待を裏切らない作家さんです。

パーマリンクさんはライトノベルはお読みにならないようですが、米澤さんの古典部シリーズも面白いですよ。

それでは。

たかちょんさん、コメントありがとうございます。
ライトノベルを避けているつもりはないのですが、たまたまこれまであまり読んでこなかったもので、どうやって選んでいいのかわかりません。となれば、今注目の米澤穂信の既刊から手を出すというのはアリですね。というわけで、ご推薦の古典部シリーズ、近い内に探してみたいと思います。

トラックバックありがとうございました。
お返しをさせていただこうと思ったのですが、どうしても上手く反映しないみたいで、コメントのみで失礼させていただきます。
表紙がとても可愛らしいイラストの上、甘そうなタイトルなので、甘くて軽い内容なのかしら?と敬遠していたのですが、とても面白かったです。
最後は予想以上の展開で、続きが気になって仕方がありません。

エビノートさん、コメントありがとうございます。
TBに関しては拒否設定も何もしていないのですが、何故でしょうね…。不思議です。
それにしても、このシリーズ第2作のラストは吃驚しましたね。いきなりシリーズの基本設定の意義を問う展開になるなんて。3作目が楽しみでもあり、何やら心配でもあります。少なくとも冬期限定○○事件までは続いて欲しいと思うのですが、この勢いであと2作となるとかなりハードルは高いでしょうね。

TBありがとうございます。
「あなたが―蜘蛛だったのですね」とは、まさにその通りですよね! 1作目と比べると面白さが格段にアップしてます。
春・夏と来ていますから、秋・冬は確実だと思いますが(いや、思いたい!)、次回作が楽しみです。
ちなみに、シリーズではないですが、最近文庫化された『さよなら妖精』も良かったですよ。

トラックバックありがとうございます。
 私もライトノベル系はあまり読んだ事なかったので、この本を購入するとき多少不安でしたが、読み終わった後、見た目の可愛らしさにダマサレタ!と思いました。
 堂々たる本格推理小説でしたね。次作も楽しみですが、まずは一作目を読んでみようと思います。

あくあさん、コメントありがとうございます。
著者のサイトを見ると、「秋」についてはもう、予定の中に入れてありますね。まだ仮題ですが『秋期限定モンブラン事件』で、出版時期は未定となっています。2作目でここまでやっちゃって、この先どうするつもりなんだろうと思うと、ハラハラしますね。
ちなみに、『さよなら妖精』は、今日辺り読み終わる予定だったりします。

雪柳さん、コメントありがとうございます。
このタイトルとカバー絵はちょっと反則ですよね。ある意味損しているかもしれません。内容は結構ハードだし、推理小説としても、仰るとおりの本格なのに、これじゃあなかなかそうは見てもらえないでしょうね。まあ、東京創元社というレーベルイメージで、どうにか手にとってもらえるかな、といったところでしょうか。
1作目は2作目に比べると少々小粒な印象ですが、ふたりのキャラクターを知るためには読んでおいて損はないと思います。そのうえで2作目のラストを思い出すとなおさら、これはすごい展開だ!と思えるんじゃないでしょうか。

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