浦賀和宏『松浦純菜の静かな世界』(講談社ノベルス)

浦賀和宏『松浦純菜の静かな世界』(講談社ノベルス)浦賀和宏『松浦純菜の静かな世界』を読んだ。

佐藤友哉のことを書いたとき触れた「メフィスト賞」。実はここから出た作家の殆どの作品を読んでいる。読み残しているのは3人だけ。それほどぼくは、この玉石混淆ともいえる賞を楽しみにしている。少なくとも、これほど積極的に新人をデビューさせる賞は他に類例がない。

浦賀和宏もここからデビューした作家の一人だ。

彼は同じくメフィスト組の清涼院流水と並んでえらく叩かれた作家の一人だった。確かにうまい文章だとは思わなかったけれど、ぼくにはそんなことが問題になるようなレベルの作品だとは思えなかった。だから、おおいにハマったし、次回作を本当に心待ちにした。
最近の評価はよく知らないけれど、新しい才能に反発はつきものだと思えば当然の成り行きだったのかもしれない。今や大御所といっていい綾辻行人だってデビュー当時は大変だったようだし。

デビュー作『記憶の果て』から『学園祭の悪魔』までの一般に「安藤シリーズ」と呼ばれる作品群は、当時の新本格全盛期にあって凄まじい衝撃力を持っていた。浦賀和宏が「ゼロの波」を準備したといってもいい過ぎではないと思う。それくらい、彼の登場はエポックメイキングだった。もちろん、今でもその破壊力はいささかも衰えていないし、初期作品の多少の読み難さを棚上げしても読む価値があるとぼくは思う。

『松浦純菜の静かな世界』はシリーズ外の作品だ。そしてかなり普通に推理小説している。浦賀作品としては異常なくらい正統派だ。もともと、本格に対する思い入れは強いのだと思う。だからこそ、その「お約束」を過激なまでに破壊してみせることができた。裏を返せば、正当な本格推理モノも書ける素養があるということだ。実際、安藤シリーズ以外ではそういう一面を見せてもいる。しかも結構高いレベルで着地している。『松浦純菜の静かな世界』も推理小説として十分楽しめる作品だった。

けれども。

ぼくは初期「安藤」モノの衝撃がどうしても忘れられない。ついあの流れの作品を期待してしまう。講談社ノベルスから本が出ると余計に。だから、今回は今回で面白かった。でも、それはあえて横に置いてしまおう。そして。

次こそ「安藤シリーズ」最新作を読めますように。

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