恩田陸『MAZE』(双葉文庫)

恩田陸『MAZE』(双葉文庫)恩田陸『MAZE』を読んだ。

著者の作品としては比較的推理色の強く出た作品だと思う。ミステリ的なテーマは人間消失。僻地にある謎の建造物で人が消える。それがいつから存在するのかも、何のための場所なのかも、まったく分からない。ただ、人が消えたという記録や伝承だけが山のようにある。

残された資料、そして実地検分によって人間消失の謎を解き明かす。これが作品の骨子である。ただ、恩田作品であるからには、素直な論理ミステリにはなっていない。印象としては幻想やホラーの色合いが強い。主人公を襲う定番の怪異描写など実に堂に入っている。

各要素だけを取り出してみれば、キャラクターも怪異もクローズドサークルに置かれた場の設定も、特段目新しいものではない。むしろ、使い古された要素ばかりで成り立っているといってもいい。けれども、これはこの著者のいつものやり方なのである。

それが既視感を与えると共に著者独特の郷愁を生んでいる。

幻想ミステリのオチに不条理な要素を残すというのは、割とよくある手法だと思う。本書でもメインとなる謎が解け、関係者たちの思惑が暴露された後も、根幹となる「本物」の不思議だけは解明されない。この謎の残し方が綺麗な余韻に繋がっている。

一方、解き明かされる謎は極めて即物的だ。キーワードは「便乗」ということになるだろうか。いずれにしても、強い幻想性や緻密な推理を期待して読むと思わぬ肩透かしを食らうかもしれない。ただ、この一点でこの作品の評価を下げるのは早計だと思う。

アンフェアとも取られかねない大掛かりな仕掛けは、追求過程に訪れる怪異と精妙に絡み合い現実感を失わせる。また、あまりに形而下的な真実は、割り切れずに残ったファンタジーを効果的に強調してもいる。これが著者の作家性なんだろう。

ロジックを存分に駆使しながらファンタジーを印象付ける。

著作の中では分量的にも内容的にも軽めの作品ながら、この人の個性は十分に感じ取ることができる。読書家に受けるイメージのある著者だけれど、これは普段あまり本を読みつけない人でも気軽に楽しめる作品だと思う。若年層にも向いているかもしれない。

シリーズ化されているようなので、その内に続編も読んでみたい。


【関連リンク】
・恩田陸『クレオパトラの夢』

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