恩田陸『劫尽童女』(光文社文庫)

恩田陸『劫尽童女』(光文社文庫)恩田陸『劫尽童女』を読んだ。

超能力少女のお話だ。著者自身がいう通り、極秘に行った超能力開発の実験体を組織が追っているという設定はスティーブン・キングの『ファイアスターター』を下敷きにしたものだろう。人為的に強大な力を植え付けられた少女。その力を巡る軍や地下組織によるパワーゲームというバックグラウンドはもろに大友克洋の漫画『AKIRA』の世界でもある。とはいえ、そこは恩田陸のこと、素直な超能力アクションであるはずもなく、むしろ、超能力の発動シーンは思ったより少ない。それよりも、一筋縄でいかない構成の妙に、唸りながら読むのが正しいと思う。

ステレオタイプともいえるSF的世界観をモチーフにしながら、そこに描かれるのは、「化け物」として生まれついた少女が、その血に塗れた過酷な人生の中で、生きる意味と居場所を見付けるまでの成長物語だ。核ミサイルを巡るエピソードなど、著者の作品中でも比較的大掛かりな仕掛けが楽しめる作品でもある。意外に人情味に溢れているあたりも含め、宮部みゆきのSF寄りの作品が好きな人なんかにもウケそうなテイストだ。

それにしても、"力"の表現に関して大友克洋の果たした役割は大きい。

『童夢』で試みられた"見えない力"の視覚化の方法は、その後間もなく完全にスタンダード化してしまった。それは狭義での超能力に限らず、"気"や"オーラ"を持ち出すバトルアクションでも不可欠な表現となっている。この『劫尽童女』でも、力の兆しを示す場面や、大きな力が爆発する場面で、その視覚的イメージをそのまま言語化したような表現が多々見られる。ついでに言えば、力の副作用で外見が急速に老化しているトオルや、ガラスケース越しに中のおはじきを自在に動かす訓練など、『AKIRA』を思い起こさせるシーンは少なくない。

誤解のないように書いておくけれど、ぼくは何もオリジナリティについての話をしているわけではない。いくら先人の発明した表現を多用していようとも、恩田陸がオリジナリティ溢れる作家であることに変わりはない。何といっても『劫尽童女』は良質なビルドゥングスロマンである。ラストに見られる眩いまでの少女の成長は、ストーリーテラーとしての著者の実力を十分に示している。

先人が発見した豊かな水源を後世に伝える。

それも語り部が果たすべき大切な仕事のひとつだと思う。

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