半村良『完本 妖星伝』[全3巻](祥伝社文庫)

半村良『完本 妖星伝』[全3巻](祥伝社文庫)半村良『完本 妖星伝』を読んだ。

ぼくが手にしたのは祥伝社文庫から全3巻で出ている版である。その3冊ともが文庫としてはかなりの大部。分厚いことでは人後に落ちない京極夏彦の著作にも負けず劣らずといったところ。正直にいえば、もう少し細かく分冊して欲しかったとも思う。というのも、妖星伝は全部で7部構成になっているからだ。1部1冊全7巻だったらこれほど手が疲れることもなかったはずだ。

実をいうと、伝奇小説というものをこれまで殆ど読んでこなかった。それらしい作品といえば、高橋克彦『竜の柩』『霊の柩』くらい。山田風太郎の忍法帖シリーズなどはこっちの仲間と見て良いものかどうか。とにかく、その程度のジャンル認識だということだ。けれども、これらの作品と妖星伝はとても相性がいい。親類と呼びたいくらいだ。

表面的なことを言えば、まさに『竜の柩』と忍法帖を混ぜたような道具立てで、しっかり娯楽小説をやりながら善悪貴賎といった既成の価値観に揺さぶりをかける。その手並みは見事。また、著者自身の自問自答がキャラクターたちに色濃く反映しているように見えるあたりなんかは、平井和正『幻魔大戦』に近い印象も受ける。

荒唐無稽と質実剛健を同居させるような無茶で切実な語り。読む者の想像など彼方に置き去りにするようなめくるめく展開。そして驚愕のの完結篇。この完結には賛否あって当然だと思う。それまで伝奇の手法で語られてきたSF的宇宙観が突如剥き出しに開陳される。雑誌掲載を諦めてまでこの形に拘った完結篇だ。刮目する他ない。賛否がある。つまりは看過しがたいということだ。これだけ強烈な内容なら、好き嫌いはあって当然だと思う。

ただし、これだけは間違いない。

そこには読書の愉しみがぎっしりと詰まっている。

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