舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』(講談社ノベルス)

舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』(講談社ノベルス)舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』を読んだ。

突き抜けた愛の短篇が2つ。この人はそもそもずっと愛について書いてばかりいる。だから、暴力的でも血塗れでも、最後には甘い匂いを置いていく。それがついにど真ん中の恋愛を書いた。事実かどうかは別として、これを時代の要請ととるのは面白い。

要するに『世界の中心で、愛をさけぶ』『Deep Love』に対する本物からの回答だという見方である。ファストフードの存在は否定されるべきものではないけれど、世の中には懐石だってフレンチだって美味い料理はまだまだあるんだよ、という話である。

泣きたい人が泣くために泣ける作品を選ぶことは消費行動として自然なことだし、マルチメディア戦略で莫大な利潤を生むことも全然罪ではないと思う。泣くことはカタルシスを伴う立派な娯楽だ。それだけみんなが抑圧からの開放を望んでいるんだともいえる。

だから、そうした要求に応える小説や映画やドラマがあるのは自然なことだ。ただ、作家がみんなそういうことをやりたいわけではないし、そういうもので感動できる消費者ばかりでもないのも事実だ。そこで舞城王太郎みたいな作家が歓迎されることになる。

これは泣けない恋愛小説である。

個人的には、純文学よりずっとエンターテイメント寄りの作風だと思っている。ただ、先に挙げた作品たちのような類型的な分かり易さとは無縁だ。難しくはないけれども、突き詰めた作風なのである。類型の先にあるものを見せてくれる。

表題作は類型的な設定からどんな新しい世界を想像し創造し得るかという、著者なりの回答なのかもしれない。恋人の死なんてどうしようもないテーマで、どれだけライトユーザーを取り込み、かつ簡単には泣かせないエッジの効いた作品をものするか。

少なくとも後者については十分にクリアしていると思う。

ライトユーザーの取り込みに関してはデータがないから分からない。ネット上に散見される書評類を見れば、この作品以前からの読者が多いようにも思える。まあ、ライトユーザーは趣味で書評を書いたりはしないだろうから、実は結構いるのかもしれない。

若干メタフィクショナルな構成もあって、タイトルほどにストレートな作品ではない。その分独特のアクも薄まっていて、割りとライトユーザー向けの作品だと思う。だから、より刺激を求める人には併録の「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」の方が向いている。

こういう個性を持った作家の作品は、とにかくその文体に触れて初めて魅力が分かる。逆にいえば、文体が肌に合わなければどうにもならないということだ。ぼくがイマイチ町田康にのめりこめないように、舞城節に没入できないという人がいても不思議ではない。

ただ、片山恭一を最高と思う人にも読んでみて欲しいとは思う。

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comment - コメント

こんにちは。
拙宅記事へのトラックバック、ありがとうございました。
舞城作品は、全部読んでいるわけではありませんが、けっこう好きな作風です。
仰るようにこの作品は、これまで敬遠されてきた読者層にも、比較的受け入れられるかもしれないですね。
片山さんの方は、、、拙宅で散々吐いてますんで、敢えてコメントを控えます(笑)

主婦いちみさん、コメントありがとうございます。
自分でライトユーザー向けとか書いておきながら、これまで敬遠されてきた読者層が表題作で受け入れかけて、「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」で再びヒいてしまうという悲しい結末が見えるような気がします。
片山某の方は主婦いちみさんと違って冒頭を立ち読みしただけで読み通してもいないんですよね、実は。だから、ぼくには、本当は引き合いに出す資格さえなかったりします。でもまあ、だいたい想像はできるのでやっぱり読まないとは思いますが。

はじめまして。

トラックバック、させていただきました。
舞城王太郎は、僕も大好きなんです。
文学がスルーしているものに、ぐいぐい針を刺しているような小説は、読んでいて、愛しくもなります。

ひとつのサイトからトラックバックを通じてべつのサイトへ行き、同じ本についてのそれぞれの人の読み方がかんたんにわかる。そういうことができたら、いいな、と思っています。

なので、これからもちょくちょくトラックバックさせていただきたいと、思います。(もしご迷惑なら、すいません、遠慮なくおっしゃってください)。

キズキさん、いらっしゃいませ。
ぼくは、それほど熱心な舞城ファンではないのですが、新書か文庫で出れば読む程度には好きといったところです。何しろ、単行本は高くて場所をとるので、舞城本に限らずほとんど買いません。
舞城作品は正直突抜け過ぎで解釈に苦しむ作品もありますが、概ねあの文体に助けられて楽しめることが多いですね。それに、根本のところで愛を信じてるのか信じようとしているような作風も、変に恰好をつけてなくて好感が持てます。
トラックバックは取り上げている本に関連する限り歓迎というのが基本方針なので、遠慮なくどうぞ。そちらの書評もまたゆっくり読ませていただきますね。

はじめまして。TB送らせていただきました。

これはホント泣けない恋愛小説ですよね。泣きのメカニズムを上から眺めてしまうというか、たとえるなら、酒で酔っ払ってる時に「所詮アルコールのせいだしな」と妙に覚めてしまってるみたいな。
でもそんな思弁的なところが好みでした。

> daen0_0さん
ちゃんとセカチューを事前に読んでるあたりが周到ですね。ぼくは、冒頭の立ち読みだけで断念してしまいましたから。安易な酔いを許さないというのは、よりディープな場所に行くための戦略なんでしょうね。まあ、ぼくの場合は戦略云々より舞城節を愉しんでいるというのが正直なところだったりしますが。

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