舞城王太郎『熊の場所』(講談社ノベルス)
舞城王太郎『熊の場所』を読んだ。
著者初の短編集だ。単行本で出たときはコストパフォーマンスを考えて保留していたのだけれど、ノベルスで出てしまった以上文庫化までは遠いと判断して購入。それでもページ数を思うと高い。
この前に西尾維新の新刊も読んだので、ここのところ「ゼロの波」ばかり固めて読んでいることになる。舞城王太郎は同じ波の中にいて、一人少し歳が離れている。その差異は多少なりとも作品にも表れているように思う。それは幸福だとかそういう幻想に対するスタンスの違いだったり、人間だとか自分だとかいうものの受け入れ方の違いだったりする。
世界は理不尽でどうしようもないものだ、というような夢のない立ち位置は共通しているものの、その先に立ち上がってくる物語はずいぶんと違ったものになっている。悲惨で救いのない現象を描きながら、舞城王太郎のそれには多分に意識的な人間賛歌が感じられる。
こんな世界に生きている以上、力の限り、全力で、暴力も妄想もフルに活用してもぎ取らない限り誰も幸せになんかなれない。だからとりあえず、目の前の問題は解決を考える前に撃破する。そんな一見極端に見えて、その実すこぶるまっとうな原理で舞城作品の世界は語られる。
家族や社会や愛や幸福への極端に意識的な前進。
それは(少なくとも現時点での)西尾維新や佐藤友哉にはない感覚だ。その視点は独特の文体とともに舞城王太郎が特に「文学」系に歓迎される所以でもあると思う。
端的に言うと文体や描写の割りに内容自体は実に甘口だ。
posted in 05.02.21 Mon
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