高田崇史『QED 鬼の城伝説』(講談社ノベルス)
高田崇史『QED 鬼の城伝説』を読んだ。
シリーズものの9作目だ。歴史ミステリと言われるジャンルは高橋克彦とこの人くらいしか読まない。どちらも歴史に疎くても全く問題ないのが嬉しい。読んでいると何やら歴史に詳しくなったような気持ちにすらなる。ただ、どこまでが一般論でどこからが著者の持論なのか皆目見当がつかないので、下手に人には喋れない。そもそも読み終える頃には半ば以上忘れていることの方が問題か。
最近の著者の傾向としては、「まつろわぬ人々」を扱った作品が多い。歴史は時の権力者、支配者たちが後世に残すもの。彼らに与せず歴史の闇に追いやられた人々の真実を、様々な史料を元に考察し見出していく。
歴史観の希薄なぼくには説得力があり過ぎて、毎度のことながら展開される仮説を真実と思い込んでしまいそうになる。桃太郎の鬼退治が題材と聞いて、話の方向性はすぐに想像できたけれど、それにしても固定観念を覆す手際はみごとの一語に尽きる。
正直ミステリ部分は食い足りないことも多い。今回も例外ではなかったけれど、眼目は歴史解釈とそれに連なるホワイダニットにこそあって、そこは納得のいく内容だったのだから問題はない。
ただ、複数の登場人物を使って、岡山の歴史について延々語らせる場面はもう少しどうにして欲しかった。話の性格上、全体の長さに比して、情報提示に割かれる場面が多いのは仕方がない。観光案内や歴史講義を聴かされているような気持ちになってしまった。これまでの作品の中でも特に、情報の出し方に工夫が足りなかった気がする。好きなシリーズだけに残念だ。
この傾向が今後強まらないことを願う。
ちなみにシリーズ過去作品では『QED 東照宮の怨』が個人的お勧め。
posted in 05.03.11 Fri
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