ジェイムズ・P・ホーガン『巨人たちの星』(創元SF文庫)

ジェイムズ・P・ホーガン『巨人たちの星』(創元SF文庫)ジェイムズ・P・ホーガン『巨人たちの星』を読んだ。

名作『星を継ぐもの』に始まるシリーズ3作目で、著者はついにこれまで語られなかった過去をすべて語り尽くす。いや、この後にもシリーズは続いている。けれども、やっぱりこれは3部作として読むべきなんだと思う。これら3作品は、それほど強固に互いを補完し合っている。もちろん、それぞれがひとつの作品として完結してはいる。ストーリー上メインとなるエピソードも3作3様だ。1作目は5万年前の遺体と人類進化の謎、2作目は異性人との邂逅、そして、3作目では異文化間の摩擦と闘争が重点的に描かれる。宇宙規模のポリティカル・サスペンスといってもいい。

これまでの作品世界では過剰といっていいくらいの性善説がまかり通っていた。ところが、今作では摩擦の中心に、ミネルヴァ戦争を生き延びた地球人とは別のルナリアンの末裔、ジェヴレン人が登場する。そして、母星を破壊するほどの戦争の原因が、実は彼らにあったことが明らかになるのである。その過程で従来の考察は覆され、地球人はそもそも闘争を好む性質をそれほど持ってはいなかったような説明がなされる。すべての悪の根源がジェヴレン人に収斂される。この結論は、実は恐ろしいほどに救いがない。何しろ、この悪意には理由がないのである。

著者の科学至上主義は極まっている。そして、そのために悪意の人種ジェヴレン人が最大限に利用されている。なんと地球人の非科学的思考までもが、ジェヴレン人の陰謀によるものだということが判明するのである。非科学を科学的に説明しようという試みはいくつもあるだろうけれど、これほど思い切った説がそうそうあるとは思えない。それだけではない。東西冷戦、反核運動など、科学の進歩に関わるすべてが彼らの工作だったというのである。ここまで壮大なご都合主義になど、なかなかお目にかかれるものではない。本物の馬鹿である。もちろん、褒めている。

本心を吐露するなら、ぼくはこの絶対悪をも救うラストを期待していた。だから、この作品を手放しで褒めることはできない。ガニメアンは生まれながらに善なる存在、或いは、科学的存在である。著者にとってそれらはほとんど同義といっていい。そして、底抜けのオプティミストである著者は、遺伝的に闘争の血を受け継いでいるはずの地球人までも、ほとんど性善の存在として描くことに成功している。その罪を一手に背負わされたのがジェヴレン人である。タイムパラドクスの中で永劫なる闘争の連鎖に放り込まれたジェヴレン人の運命はあまりにも過酷だ。

もちろん、それでもなおこの3部作の面白さは筋金入りだ。読んで損はない。


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