ジェイムズ・P・ホーガン『ガニメデの優しい巨人』(創元SF文庫)

ジェイムズ・P・ホーガン『ガニメデの優しい巨人』(創元SF文庫)ジェイムズ・P・ホーガン『ガニメデの優しい巨人』を読んだ。

傑作の続編が期待を裏切らない、稀有な例のひとつだと思う。前作『星を継ぐもの』を超え、本作ではなんと2500万年にもわたる人類の来歴が語られる。前作で積み残した謎が、生きた異星人ガニメアンの登場によって明らかにされていく。けれども、この作品の面白さは謎解きにのみ還元されない。本作を快作たらしめているのは、何をおいてもその牧歌的ファーストコンタクトの描写である。書名にある通りガニメアンは優しい。これほど友好的かつ障害の少ないファーストコンタクトは地球人同士でも難しいだろう。その軟着陸ぶりは映画“E.T.”を超えている。

愛すべきガニメアンとの交流は、理知的かつ自愛に満ちている。地球人類を遥かに凌ぐ彼らの知性と、生来的に穏健な性質がそれを可能にしている。なかでも特筆すべきは、そんな彼らの知性と優しさが生み出したコンピュータ、ゾラックの存在である。この人工知能は英語を学び、コミュニケーションを助けるばかりでなく、ほとんど人格を認めたくなるようなコミュニケーションスキルを発揮する。特に英語を知ったすぐからユーモアを解するシーンは印象的だ。2001年のHALにはない友愛の情を感じざるを得ない。いや、心温まるSFというのもまったく悪くない。

そんなガニメアンの優しさ、否、優しさゆえの苦悩がラストの彼らの選択に繋がる展開はあまりに見事だ。人類の謎と物語がしっかりと有機的に結びついている。知的興奮とエモーショナルな感動が抱き合わせでやってくる。巧い。ガニメアン文明の進んだ科学技術の扱い方がまたツボを心得ている。遥かに進んだ文明や科学技術は何でもありのご都合主義になりやすい。ところが、本作では主にコミュニケーションに資するのみで、彼らの知識なり技術なりが謎の解明を促したりはしない。ただ過去に与えた重大な影響だけが取り沙汰されるのみである。

実は、ガニメアンの優しさは生物学的必然であることが比較的早い段階で明かされる。それは同時に地球人類の性質を語る契機にもなる。そして人類の歴史は戦争の歴史であるという常套句にひとつの説明がなされる。前作の謎の中心だったルナリアンの歴史とも矛盾することなく、人類進化の謎にさらなる新事実が浮かび上がってくる。前作の顛末を包含しつつ、さらにひとまわり大きな歴史を語る手腕は生半ではない。しかも嬉しい驚きに満ちたエンディングが、そのまま次作への伏線になっている。無矛盾に世界をスケールアップする至高のセンスオブワンダー。

ぼくはSFフリークではないけれど、これこそSFの醍醐味だろうと思う。


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