蒼井上鷹『二枚舌は極楽へ行く』(双葉ノベルス)
蒼井上鷹『二枚舌は極楽へ行く』を読んだ。
デビュー作『九杯目には早すぎる』が話題だったにもかかわらず、それを飛ばして2作目を読んでしまった。寄った書店に在庫がなかったせいだ。まあ、読む順序に意味があるような作風でもなかろうと判断して買ってみた。これが意想外に面白い。
ただ、真直ぐな面白さではない。どちらかといえば奇妙な味わいの作品である。といって、ブラック・ユーモアという括り方は、必ずしも的を射ているとは思えない。一方で、ミステリ色は色濃いけれども、推理小説的な要素が面白味の中心とも思えない。
割り切れる面白さと割り切れない面白さがうまく同居している。このバランス感覚は独特のものだ。それは各話のテイストにもいえる。一見ビターなばかりのようでいて、1篇だけスイートな話が織り込まれていたりする。これがいかにも悪くない。
全体としては12篇からなる1冊で、連作だとかいうほどに共通点を持った話ではない。ただし、イマドキの流儀としてそれぞれを繋ぐ糸はちゃんと仕込まれている。この辺りの抜け目ないサービス精神は、近頃のミステリ畑の作家には不可欠な要素かもしれない。
押さえるべき所はちゃんと押さえている。
本作中にはショートショートといっていい長さのものもある。これが軽快な語りで、実にシビアなオチをつけてくる。切れ味は相当にいい。業物である。思うに、短い話というのは着想と文章力に恵まれなければ、そう書けるものではない。かなりの地力があるに違いない。
玩具箱のようにアイデアが詰まったこの作品は、どこかSFショートショートの巨人、星新一を髣髴させる。どこが似ているというのではない。キレイ事ではない人の性を、絶妙のユーモアで味付けて給仕する。そのウェルメイドな作風に共通性を感じるのかもしれない。
もちろん、ぼくが書店で見かけたデビュー作の表紙に、「ボッコちゃん」の影を見ている可能性は否定できない。けれども、そんな先入観を差し引いても、巧いという評価に大きな修正は必要ないと思う。そもそも面白い短篇をコンスタントに書けるというだけでも貴重な才能だろう。
デビュー作と合わせて『出られない五人』も買おうと思う。
posted in 07.01.26 Fri
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comment - コメント
こんばんは~。はじめまして。
トラバありがとうございます。
蒼井さんの『九杯目には早すぎる』は
是非!!とオススメしたい作品です。
私はかなり衝撃を受けました(笑)
だから『二枚舌..』はあっさりした
感があった私です。
posted in 07.03.15, by naru
naruさん、いらっしゃいませ。
やっぱり1作目なんですね。あちこちで目にする感想を斜めに眺めてもそういう人が多いように思います。つまり、きっとこの2作目よりも面白いということで、読む愉しみが増しました。この週末に買います。なんとしても!
それにしても、ぼくが日々立ち寄る書店は一度在庫を切らすとなかなか新たに入荷してくれないので困ります。
posted in 07.03.16, by りりこ@管理人