あさのあつこ『バッテリー 3』(角川文庫)

あさのあつこ『バッテリー 3』(角川文庫)あさのあつこ『バッテリー 3』を読んだ。

少年野球を題材にした小説で、タイトルが示す通りシリーズ作品の3作目だ。単行本としては教育画劇という出版社から全部で6冊出ている。ぼくが読んだのは角川文庫版で2004年末ようやくこの3冊目が出た。

井上雄彦の漫画『スラムダンク』を読んで、バスケットに興味を持った人は多いと思う。スポ根やビルドゥングスロマンとは全く感触の異なる面白さがそこにはあった。あれは一見バスケット初心者桜木の成長物語に見えて、実のところ、桜木、流川をはじめとする類稀な才能を持った「天才」たちの物語だった。もちろん、彼らはただ超人として描かれるわけではない。努力を惜しまず、時に弱さを曝け出し葛藤する。その上で描かれる圧倒的な才能にぼくたちは期待し、感動する。

『バッテリー』は原田巧という「天才」の物語だ。そして、やっぱりスポ根やビルドゥングスロマンとは程遠い。巧はピッチャーとして図抜けた才能を持っている。そして、中学生らしい可愛らしさや爽やかさとは無縁のキャラクターだ。1作目を読んだとき、これだけ強靭で扱い難い少年を、ここまで魅力的に描けるものなのかと瞠目した。

そして、巧とバッテリーを組むキャッチャー、永倉豪。誰もが持て余さざるを得ない巧という鮮烈な個性を、彼はありのまま全身で受け止めて見せる。誰にも真似できないその懐の深さ、真摯さに心を打たれる。

特異ともいえるこうした少年たちを、著者は決して絵空事にせずリアルに活写してみせる。周囲の大人や同級生たちの描かれ方にもそれは当てはまる。圧倒的な才能を前に、彼らはそれをどう受け入れるか、決断を迫られる。反発や戸惑いもある。きれい事ではない。

それでも、この物語は美しいと思う。

単行本の出版社名からも見当がつくように、これは児童文学という土壌で生まれた作品だ。その点をもって手に取るのを躊躇するのではあまりにもったいない。

著者は子供たちの目をただの一片も過小評価していない。

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