春山昇華『サブプライム後に何が起きているのか』(宝島社新書)

春山昇華『サブプライム後に何が起きているのか』(宝島社新書)春山昇華『サブプライム後に何が起きているのか』を読んだ。

概論から各論へ。同著者の前著『サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉』との関係でいえば、たぶんそうなる。まず、第1章で前著以降に広がった金融危機の様子を総ざらいし、第2章ではアジア・中東の国富ファンドが救世主として台頭してくるまでを説明。ここまでは順当に書名通りの内容といえる。その後、第3章と第4章では前著のポイントだった「証券化」と「レバレッジ」の実態が、より具体的に掘り下げられている。第5章では突如ローマ帝国に始まる覇権の歴史から未来の展望が語られ、最終章、日本の今後を考えて稿を閉じるという構成だ。

サブプライム問題を俯瞰した前著に比べると、全体としては散漫な印象を受ける。ただ各論としてはとても分かりやすく噛み砕いてある。中でも前著の理解を深める役を果たしている第3章、第4章あたりが個人的にはとても興味深かった。モノライン保険会社や格付け機関の話なんかは、証券化ビジネスという手品の種を見るようでかなり面白かった。第5章だけは取ってつけたような内容だったけれど、それほど紙幅を割いているわけでもないのでさしたる瑕ではない。それよりも、タイムリーな出版を目指した弊害かやたらと誤字が目立つことの方が気になった。

全篇を通してサブプライム問題が近年の行き過ぎた金融技術が生んだ歴史の徒花だったことがよく分かる。実を結ばないどころか、腐って落ちて周囲をも腐らせていく。世界の金融機関が被るだろうと予想されている損害額は2,650億ドル。ぼくのような一般庶民にはまるで把握不能な、ほとんど幻のような金額である。過去の金融危機との大きな違いは、先進国が軒並み被害を被り互助関係が成立しなくなった点にある。そして、新興国の資金が欧米の金融機関に大量に流れ込んだ。これは、意図せずグローバル化がさらに推し進められたという見方もできそうだ。

実のところ、ぼくのような先進国の庶民労働者がグローバリゼーションの恩恵に与ることは難しい。それは当然、労働力の競争の激化を意味するからだ。既に中国やインドにアウトソースされた労働力が、先進国の労働者から仕事を確実に奪い去りつつある。とはいえ、グローバリゼーションの波をいまさら逆行することはできない。幸い、まだ日本には元経済大国として蓄えてきた資本がそれなりにある。著者が最後に示す未来は投資立国への道である。資源も労働力も限りある日本は、今ある智と財を最大限に活かすべきだという主張に反論することは難しい。

サブプライム問題の後始末は、新しい経済活動への転換点になるのかもしれない。

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