春山昇華『サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉』(宝島新書)

春山昇華『サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉』(宝島新書)春山昇華『サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉』を読んだ。

事後処理の真っ只中ながら、既に過去の話題となりつつあるサブプライム問題。一般に流布するざっくりとした流れは理解しているつもりだったけれど、『サブプライム後に何が起きているのか』という同著者の最近作が気になって、おさらいのつもりで同時に購入してみた。そもそもの理解が曖昧なところも大いにあった。だから、大枠を再確認するには最適の書だった。第一に、平易な言葉で書かれている。第二に、ディテールに踏み込みすぎない。反面、仕組みがよく分からない部分なんかはあったけれど、枝葉に目を向けるのは先の課題にすべきだろう。

低所得者層を救うはずのサブプライム・モーゲージが、何故「問題」になってしまったのか。それは結局のところ、モラルの問題に集約されるように思える。まず、新しい金融商品が生まれる。これを本来の目的を超えて目先の利潤追求に利用する輩が出てくる。それに伴ってバブルが加熱する。が、景気の後退を恐れて規制が後手に回る。更に、発達した金融技術がハイリスクな運用に拍車をかける。そして、予定調和。バブルは弾ける。およその流れはこういうことだろうと思う。被害拡大のキーワードは「証券化」と「レバレッジ」あたりだろうか。

景気が低迷しているとき、カンフル剤となるのが住宅である。これは大抵の人にとって、おそらく一生で最も大きな買い物だからである。家を売るために利下げが行われたり、住宅購入者に有利な税制が布かれたりする。これらの対策は当たり、住宅は売れた。需要が拡大すれば、価格は釣り上がる。サブプライム・モーゲージは、その対象に信用の低い、いわゆるマイノリティを想定した住宅ローンだ。ローン金利と信用度は当然反比例する。信用が低いということは金利が高いということである。そこでこのローンは最初の2、3年「だけ」返済額を大きく下げた。

常識的に考えれば、これじゃ3、4年目で返済が滞るだろうと思う。が、しかしだ。このとき住宅価格はまさに鰻上りだった。返済が滞るようなら住宅を売り払ってしまえばいい。返済額を回収してもお釣りがくる。貸す方も借りる方もノリノリである。ところで、貸付ける側は現金を貸してしまうとその資産は債権に変わる。当然だ。現金が底をつけば、債権を現金化しない限りそれ以上の貸付はできない。取りっぱぐれのない貸付だ。もっと貸したい。そこで、この債権を売って現金化する。返済を待たずに現金が手に入る。これで際限なく貸付が増やせる。

売られた債券はどうなったか。まとまった債権は証券化され、投資家に売られたのである。債権を回収する人間、或いは、それを受け取る権利を有する人間が、債務者と一対一の関係ではなくなり、単純な貸借関係は完全に失われた。こうして、サブプライム・モーゲージという住宅バブルを前提とした本来回収率のそう高くないはずの債権は、証券の中に紛れ込み世界中の投資家や金融機関らに買われていった。それも、アメリカの格付け会社によるトリプルAという太鼓判つきで。アメリカ政府お墨付きの印象とともに証券化された債権はどんどん売れた。

また、債権の証券化には、貸付側が回収の心配をしなくて済むという実に無責任な効果までくっついてきた。どう考えても返済できそうにないような人間にまで無茶な貸し付けをして家を買わせる。或いは、嘘をついたり債務者に不利な条件をこっそり飲ませたりして、不当に利鞘を稼ぐ悪徳業者が横行する。ついには、銀行までが与信をおざなりにし始める。どうせ自分たちで回収するわけじゃないんだから、返せそうにない相手でもローンを組ませてしまおう。モラルは地に落ちた。もの凄くはしょっていうなら、これが「証券化」による被害拡大の概略である。

「証券化」が被害範囲の拡大だとすると、「レバレッジ」は被害額の拡大にひと役買った金融技術である。これは簡単にいうなら、準備資金以上の投資を可能にするシステムだ。いつか多くの素人が煮え湯を飲まされたFXなんかもこのレバレッジの産物である。サブプライムを扱うファンドの中には、10倍ものレバレッジをかけて運用を行っていたところもあったらしい。例えば100億集めて1000億分のリスク資産を買う。資産が10%値上がりしたとき、本来なら10億の利益しか望めないところ、100億の利益が転がり込む。もちろん、逆もまた真なり、である。

最初は景気対策、次に金融亡者による無理な貸付の横行、バブルに浮かれた人たちの住宅購入競争、住宅価格急上昇による焦り、バブルに依存した債権の急増と、証券化による世界的拡散、そして極端なレバレッジによるリスクの極大化…。アメリカ人たちは最後まで信じようとした。住宅価格は上がり続ける。日本ではその昔、地価は上がり続けるものと思われていた。神話は崩壊する。本書ではサブプライム問題が残した課題やその後の見通し、そして日本における将来の危険なんかについても触れられている。そして半年後の続編ではどんな総括が見られるのか。

これから続けて、続編に取り掛かる。感想はまた後日。

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