大槻ケンヂ『グミ・チョコレート・パイン パイン編』(角川文庫)

大槻ケンヂ『グミ・チョコレート・パイン パイン編』(角川文庫)大槻ケンヂ『グミ・チョコレート・パイン パイン編』を読んだ。

ぼくが大槻ケンヂに触れたのは音楽よりも文芸が先だった。処女詩集『リンウッド・テラスの心霊フィルム―大槻ケンヂ詩集』である。その暗い詩情に否応なく引き込まれた。その後読んだ『くるぐる使い』では、小説でもここまでやれるのかと瞠目した。

今挙げた2作に『新興宗教オモイデ教』を加えた3作を読めば、誰しも著者の才能を認めないわけにはいかないと思う。どろどろとした内面をこれ以上ない比喩と独特の言葉で綴る詩、計算され作り込まれた展開を見せる短篇小説、有無をいわさぬテンションで駆け抜ける長篇小説。

軽妙なエッセイ群とは別次元の作品たちである。

ただ、おそらくこの著者は執筆時の心境が如実に作品に表れるタイプの作家だ。基調となる精神性が作品毎にゆらゆらと移り変わっていく。それは彼が作り続けている音楽を聴いても分かる。特に筋肉少女帯解散前の最後期における変化は見逃せないものだった。

この変化を大まかな印象で語るなら、諦念と前進といった感じだろうか。特に初期作品に見られた他を寄せ付けない完全に内向きな情念は、現実との摩擦に擦り切れ少しずつ影を潜めていく。1980年代狂気の中にいた著者は90年代半ば狂気を外から眺めるようになる。

ダメでも内に向かえという負のベクトル信仰のようなものが揺らぎはじめたとき、筋少は事実上活動を停止してしまった。その帰結として1998年発売のベストアルバム“SAN FRANCISCO”中の新録‘サンフランシスコ10イヤーズ・アフター’は誰もが泣けるカルトの名曲となった。

グミ・チョコ・パイン3部作では、1993年のグミ編と1995年のチョコ編までは後期筋少的なドロリとして無様な情念の客観化の物語である。対して、2003年の完結作パイン編は主人公たちに不条理な外の世界を見せた上で、その背中を外に向けて押す形の作品になっている。

この変化がファンの間で賛否を呼んだというのは分かる。前2作がマイナーでアングラな青春を無様ながらも肯定する作品だったとすると、パイン編は完全に飛躍してしまっている。クンフー映画のお約束的挿話といい、ヒロインの唖然とする変貌振りといい、とにかくトンでいる。

それは多分、妄想を超える不条理としての現実を戯画化して見せているのだろう。主人公ケンゾーが抱えるヒロイン美甘子への妄執と、現実の美甘子の奇行は、その意味で好対照となっている。現実は妄想よりも奇なり、である。やりすぎでも、これがオーケン流なんだろう。

そして青春モノとしての安易なシンパシーは無残に打ち砕かれる。

ダメなものはダメという筋少期から受け継がれる身も蓋もない定理をどうラストで打ち破ってくれるのか。通読してきたファンにはこれがひとつの焦点となろう。ところが、なかなかケンゾーの行く末に光は見えてこない。完結篇の大部分がどん底という悲惨さである。

著者独特の道化たユーモアが、その悲惨な色を幾分和らげているとはいえ、読む人によってはかなり身につまされる展開だと思う。ケンゾーが露呈する弱さはあまりに胸に痛い。それでも著者はどうにか彼を外のステージに立たせようと筆を走らせる。

結果、甘い妄想はとことん否定され、現実に戦いを挑んだギリギリの努力に対してだけ、僅かな希望が提示されることになる。そしてたとえば、妄想の中で幸せに暮らしました、といった昔の著者が見せていたような暗く甘美な絵は、最後まで描かれることはない。

悲しく可笑しくも感慨深い完結篇だった。

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