宮台真司・速水由紀子『サイファ 覚醒せよ!―世界の新解読バイブル』(ちくま文庫)

宮台真司・速水由紀子『サイファ覚醒せよ!―世界の新解読バイブル』
を読んだ。
久々に無駄に理屈っぽい宮台節を読みたくなった。いや、無駄にというのは言葉の綾である。たぶん、彼の理屈に無駄はない。むしろ、こちらが勉強していないと分からないくらいである。彼の発言は聞き手にそれなりの基礎知識を要求する。その、それなり、がぼくには厳しい。
そんな訳で、ぼくは宮台本が好きだけれども、彼のいっていることは実はあまり良く分からない。いや、いわんとするところは文脈を辿れば理解できる。ただ、憑拠となっている言論やら事実やらについて知識がないから、証明の筋道が理解不能だったりするのである。
それでも、評論だろうが学問だろうが、ぼくにとってはエンターテイメントの一形態でしかない。小説を読むときにイチイチ知らない単語や成語や比喩や引用を調べたりしないように、こうした本を読んでいても、分からない言葉は独自に解釈するか放っておく。
だから、きっとぼくはミヤダイズムを正しくは理解していない。
そうして読み終えた感想は、なるほど、と、そりゃあそうだ、である。納得したのは、社会的な自分だけでは不安定に過ぎるという指摘と目指すべき方向性。いまさらに思えたのは、社会の外側としての世界を視野に入れたとき全ては未規定性を帯びるという視点だ。
本書の体裁は、対話の形を取っている。宮台真司が持論の開陳やら事象の解説やら学術的歴史的裏付けやらを担当し、速水由紀子はただただいいたいことをいい募るという役である。一見速水がバカに見えるけれど、実は舵取りとして悪くない働きをしている。
とはいえ、やはり前半戦は速水が飛ばしすぎで少々キツい。
とにかく結論を急ぎすぎるキライがある。それはもう、理論を積み上げるだけ積み上げて、さあ、ここまできてついに行き詰ったでしょ、とオチをつける宮台の狙いを、初手からぶち壊しかねない勢いである。この辺りはもう少し流れを意識した発言があってしかるべきだと思う。
それでも、1冊の本として、向かう先を常に意識させるという意味では、まったくの無駄だというわけでもない。最後の卓袱台返しを予想させることは読者に対して親切ですらあるかもしれない。でなければ、そもそも最初から眉に唾を付けられかねない。
何しろ、これは宮台的宗教のススメなのである。
だから、宗教的結論に飛びつこうとする速水を宮台が引きとめ、順を追って説明するという構図は、読者を宗教的結論に導くのにとても効果的だ。もちろん、ここでいう宗教的というのは、信心にまつわる話では全然ない。むしろ宗教の持つ絶対性を徹底的に廃した概念である。
社会と共に移り変わるような価値観をよすがに生きていては、いつか必ず行き詰る。既存の宗教とて自分以外の何かによって規定された幸福でしかない。それは多分に社会的なものだろう。ならば、世界の視座で社会を悉く相対化し、そこに鎮座まします自分を見つけよう。
これはそういう自分教の提案なんだと思う。
悉く相対化された世界に排他はない。逆にいえば、自分ひとりが弾き出されることもないということになる。そこでは誰もが居場所に困ることがない。まさにまったき共生の世界である。何かと思えば、これはやっぱりリベラリズム徹底の話じゃないか。
結局はリベラリスト宮台にしてやられたわけである。
posted in 06.09.15 Fri
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- 06.10.16宮台真司・速水由紀子『サイファ 覚醒せよ!』
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