伊藤たかみ『ミカ×ミカ!』(文春文庫)
伊藤たかみ『ミカ×ミカ!』を読んだ。
少し前にここにも感想を書いた『ミカ!』の続編である。といっても、いかにも続編な仕上がりではない。前作に頼るところがほとんどないのである。前作の後に居を移し、双子の兄妹ミカとユウスケは中学生になっている。
何しろ主人公のキャラ以外はほとんど何もかも刷新されている。
友人の顔ぶれだけにとどまらず、パパの恋人まで前作とは変わってしまっている。もちろん、前作のミカやユウスケを知っていればこその感慨というのはある。けれども、それは読んだ方が勝手に感じることで、何も前作を下敷きにしているわけではない。
ここまで思い切って前作から独立した続編を書く作家というのはイマドキ珍しいように思う。むしろ「世界観」を演出するためにほとんど無関係な著作同士でさえ細い糸で繋ぐような作風の方が主流かもしれない。そんな中、この思い切り方は清々しい。
そういえばこの著者、何やら芥川賞を獲ったらしく、最近やたらと平積みが増えている。その受賞作「八月の路上に捨てる」は読んでいないから知らないけれど、なんともらしくない賞を貰ったものだと思う。作風が変わったんだろうか。
この人の作品の良さのひとつは、良くも悪くもブンガク的でない分かりやすさや丁寧さにあるのだと思う。だから、芥川賞作家の作品だと思って『ミカ!』や『ミカ×ミカ!』を読むと、かなり違和感を覚えると思う。まったくそちら方面の作風ではない。
文庫の帯に「祝芥川賞」なんてつけるのはどうなんだろう。
少なくとも今回読んだ2冊は純文学的ではまったくないけれど、十分に面白かったし、むしろそんな先入観はマイナスでしかないように思う。エンターテイメントとして含みのない平易な文章は決して瑕ではない。これはそういう本だろう。
話が逸れた。本題に戻ってもう少しだけ。
前作のオトトイに変わって、今回活躍するのは幸せの青い鳥である。まあ、シアワセと名付けられたインコなのだけれど。オトトイに比べれば少し破壊力は落ちるものの、ユウスケの耳の穴に嘴を突っ込んで人語を話す姿はなかなかに愛らしい。
このインコがオンナノコになり始めたミカを、また1歩次のステップに引き上げる役割を果たす。もちろんこれを手伝わされるのは兄ユウスケの宿命である。正直にいえば、今回のシアワセはちょっとあざとい。いかにもご都合主義的である。
けれども、この話なら許せるから不思議だ。
ラストの展開なんて、もう半ばお約束といっていい。少し切ない余韻を残すのも常套だ。ただもう、この手は中学生までが限界なんじゃないかと思う。高校生になるともう、らしさを守るのは難しい。そういうキャラ設定だし、そういう作風だと思う。
この続きは、気になるけれど読みたくない。
それが今の正直な気持ちだ。
posted in 06.08.04 Fri
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