三浦しをん『白いへび眠る島』(角川文庫)

三浦しをん『白いへび眠る島』(角川文庫)三浦しをん『白いへび眠る島』を読んだ。

とてもオーソドックスな成長物語、紛うことなき青春モノだ。その照れ臭いまでの輝きと、思春期特有の不恰好な心に、羨望と共感を覚えずにはいられない。

閉鎖的な離島を舞台に、不思議なできごとが描かれる。丹念に積み上げられた島の描写が、既視感を覚えるような不思議に説得力を与えている。無粋を承知で書けば、ここで描かれる島の不思議は、一種のイニシエーションとして機能している。そういう意味では、宮崎駿の『千と千尋の神隠し』と同じ構造とも言える。

ともあれ、この島がいい。

精神的支柱としての神社、合理と非合理を併せ呑む風習や掟、常に畏怖の対象であり続けている自然。今となってはファンタジーでしかありえないような世界が目の前に広がっている。そこでは、伝説の物の怪も、不思議を見る少年も、神職を支える力も、不可視の神も、全てが同じ地平に存在することが許されている。

閉じた空間。それだけで完結した世界。ユートピアというのはディストピアでもある。良くも悪くも拘らずにはいられない場所。「家」や「村」が確固とした意味を有する世界。そこは帰るべき場所であり、逃げ出したい場所でもある。そんな島民たちの心のアンビバレンツが、13年に1度の大祭に不穏な影を落としていく。

祭、儀式、怪異、神、少年、力、絆…。

島の不思議は、心躍る冒険譚でもある。

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