荻原浩『オロロ畑でつかまえて』(集英社文庫)

荻原浩『オロロ畑でつかまえて』(集英社文庫)荻原浩『オロロ畑でつかまえて』を読んだ。

とにかく楽しくて、もちろんハッピーエンド。久しくそんな物語に触れていなかったように思う。遠慮も慎みもないドタバタと、そこはかとないおかし味。いいものを読んだ。

最近『明日の記憶』という作品で「山本周五郎賞」を受賞したらしく、書店でこれまでの著作が平置きになっていた。それでたまたま手に取った。タイトルが妙チクリンで可笑しかったので、ろくに中身も確かめずに買った。「小説すばる新人賞」受賞のデビュー作らしい。著者はその頃コピーライター。今は専業作家のようだけれど、勢いのあるおかしな発想は職業柄かもしれない。

主人公は弱小広告プロダクションの社員。身近な世界を題材に選んだだけあって、さすがに活き活きと描かれている。みんな一癖も二癖もあるキャラクターなのに、こんな奴いそうだなと思うような人間ばかり。

彼らが寄って集って村おこしキャンペーンをぶち上げることになるのが、過疎中の過疎、田舎中の田舎ともいうべき僻村だ。名物も目玉もない。おこそうにもおき上がる力など端からないのである。それを弱小プロダクションが目先の金のためだけにどうにかしようというのだ。そのはっちゃけた無謀さと言ったらない。話は思惑通りのドタバタ劇に雪崩れ込む。

広告社の面々、僻村のちょっと歳のいった青年団員たち、話題に群がるマスコミ人…。それぞれのカリカチュアライズされた造形が絶妙の対比を見せつつ、全く厭味になっていないところに著者の視線の確かさを感じる。読み進むうちに素直に村の人たちを応援したくなる。ボロを出しそうになるとハラハラする。まったく思う壺である。

そんなストレートなユーモア小説だけれど、登場人物たちの内面を想像させるエピソードもしっかりと用意されている。主人公の今時な悩みや、自分の道を見つけ選び取る女子アナの姿など、笑いの中にもちゃんと人として大切なものが鏤められている。多少うまく行き過ぎるきらいはあるけれど、これくらいが明るくていい。

心ほぐれる一篇だ。

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