田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫)

田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫)田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』を読んだ。

これまで読んだことのなかった田辺聖子を、今更読む気になったのは、きっかけが二つ重なったせいだ。ひとつは4日前に書いた中島らも。もうひとつはまだ観ぬ同名映画だ。週末にはTSUTAYAをのぞいてみるのだけれど、いつも空のケースばかりが数本並んでいる。

それにしても思ったよりも古い作品で驚いた。角川文庫版の初版が昭和62年とあるから、発表年はそれよりもさらに数年は前になる。ざっと20年は前の作品だろう。読んでみて田辺聖子という作家の感性の確かさを思い知った。恋愛小説と聞いてすぐに思い浮かぶような、時代風俗に流されがちなイメージとは無縁といっていい。また20年後に読んでも、変わらずじんわり心に沁みるに違いない。

この本には表題作をはじめ、本当に色々な「女」が描かれている。

きれい事ではない。ただ、大事なものはちゃんと見定めているようなところがある。そういう「女」たちと、そんな女に「選ばれた男」たちの話だ。

田辺聖子が女を描くのが得手なのはわかる気がする。けれども、相手を務める男の描写がまた情けなかったり小賢しかったりと妙に生々しい。読んでいて気持ちが分かってしまったりする。女性の手になる男性キャラに男が感情移入できるのは凄い。

コテコテの関西弁も心地いい。

自分の生き方について思い定めている人間というのは強い。強かというのは悪いことでは全然ない。多様な関係のありようを、あるいは自分の今のありようを、決め付けることなく自然体で楽しんだり慈しんだりできる人というのは、とても魅力的だと思う。

好く生きる。その技を少し垣間見たような気になれる本だ。

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