水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)

水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)水野敬也『夢をかなえるゾウ』を読んだ。

売れているだけのことはありすぎる。これはとてもオイシイ本だ。知のマッシュアップ、或いは、成功本のベストコンピレーションとでもいえばいいだろうか。著者は他人の褌で相撲を取るために自ら土俵を作ってしまった。おそらく、書かれている成功法もそれを伝えるための方法論も、過去のHowto本のどこかには載っていて、伝聞まで含めれば覚えのある言葉ばかりが並んでいる。それでもこの本はオリジナルで、どの成功本にも書かれていない何かが書かれている。いや、それすらもどこかでは書かれているかもしれない。だとしても、そんなことはまるで問題ではない。

この本を読んで痛感した。必ずしも「何を伝えるか」がオリジナルである必要はない。ただ、「どう伝えるか」にはオリジナリティが必要だ。それこそが肝だ。だから、あらゆる文章は要約なんてできない。要約して出てくるのは「何を伝えるか」の部分だけだからだ。理解することと伝わることは似ているようで違う。誰かがいったとしよう、「要約すると、人を殺すことはよくない、ってことなんだ」…と。これだけでは何も伝わらない。いや、伝えることはとても難しい。この本はいかに伝えるかにほとんどすべてを賭けている。そして、ある程度それに成功してもいる。

成功本や自己啓発本に類する内容でありながら、この本は必ずしも成功や成長をゴールとしない。何故なら、成功みたいなものは本書の本当の核である「大切な何か」の結果でしかないからだ。いい替えれば、その「大切な何か」さえ手に入るなら結果が成功である必要は特にないのである。だから、ぼくはこの本は本として成功してはいるけれど、実は成功本としての実効性は薄いだろうと思っている。これを読んだ人の多くは「いい話」としてこの本を消化してしまうんじゃないかと思うからだ。そう、この本はとても「いい話」なのである。涙腺の弱い人なら泣けるくらいに。

まとめるならこうだ。古今の金言で一杯のいい話。成功の秘訣が分かったような気になれて、笑えて、泣ける。著者の狙いもそうした表現手法の方にあったんだろう。ちなみに、「大切な何か」をあえてここに書かないのは、書けば陳腐だと思われるだろうからだ。その点でも、この本に書かれていることはありふれている。否、普遍性が高いといった方が適切だろう。普遍性の高い内容をオリジナルな言葉で分かりやすく書く。これはできそうでなかなかできない。陳腐だと思われては仕方がないし、捏ね回しすぎて晦渋になったのでは一般ウケしない。ほど良い平衡感覚が要る。

そして、これは成功できなくても無駄にならない稀有な成功本なのである。

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