島田裕巳『日本の10大新宗教』(幻冬舎新書)

島田裕巳『日本の10大新宗教』(幻冬舎新書)島田裕巳『日本の10大新宗教』を読んだ。

とにかく新書本来の役割を十全に果たしている良書。この分野に関する取っ掛かりを平易な表現と控えめな主観で読みやすく提供してくれる。宗教音痴なぼくなどにはとても参考になった。もちろん、著者のバイアスを折込済みのものとして考えることは大前提。まずこの10(と少し)の教団を選ぶ視点から著者の今のスタンスを反映していることは明らかだし、あとがきなどを読めば、著者自身そういう読み方をされるよう配慮している節も見受けられる。その意味でも良心的な書だと思える。過激な内容を期待して読む本ではない。

たとえば、「自分は無宗教だ」と無邪気に思っている人。「創価学会」と聞いただけで虫唾が走る人。「新興宗教=カルト」と思い込んでいる人。「宗教に頼るなんて、あんたバカぁ?」と思っている人。「オーラの泉」が好きな人。ヒーリング系のサービスや商品に興味がある人。「3分間祈らせてください」って人たち最近見ないなぁ…とか、ふと疑問に思った人。観察対象として軽く宗教に興味を持っている人。こういう人たちには激しく推奨の一冊。一方で、自分の宗教観をある程度自覚しているような人には物足りないかもしれない。

まず、取り上げられた各教団の解説は実にコンパクトである。200ページそこそこで10教団以上を概観しようというのだからこれは当然だ。教団誕生から現在までの概略に、印象的な挿話を少々。批評色がゼロではないけれど、比較的薄い。語り口は淡々としている。それが却って読みやすい。繰り返すけれども、この本が中立を守っているといっているのではない。著者の批評的な視点は随所に見られる。ただ、基礎情報により紙幅を割いている点は十分にフェアだし、教団盛衰の要因を著者なりに分析して見せる辺りは読み物としても面白い。

宗教に関する情報はインターネットからも色々と収集できる。けれども、インターネット上での言論は個人的な分、どうしても信じる側と批判的に見る側との感情的な対立が表面化しやすい。どうにも両極端になりがちな分野だけに本書のようなガイドライン的情報は貴重である。もちろん、宗教学者を任ずる以上特定宗教に入れ込むなどは論外だろう。けれども教団が起こした社会的な問題や、非信者との間で起こる摩擦などを議論の中心としないことは、心情的にも販売戦略的にも案外難しいことではないか。その姿勢は評価されて良いと思う。

ところで、著者はオウム擁護で干された学者として有名だ。本書を読む限り、この人にとっての宗教は「時代のニーズに合った救済を提供するシステム」ということになる。つまり、信者がその通りの救済を(主観的にでも)得られているならば、いかに奇矯に見えようともシステムとして評価すべきだし、信者が救われないならそれはただの誇大広告か契約不履行である。普通、そんな宗教は淘汰される。誇大広告や契約不履行が意図的ならこれは詐欺だろう。そういう意味で、世評に阿らずオウムのシステムを評価した著者の姿勢は筋が通っている。

あのとき干された経験で丸くなったわけではないだろうけれど、批評を控えめに忍び込ませた本書は悪くない入門書となっている。本書における著者の意図が当たっているなら、これを読んで新宗教を作ることだってできるかもしれない。無論、下準備(マーケティング)は必要だ。「今最もニーズのある現世利益は何か?」「それを(主観的に)実現する最も簡便な方法は何か?」といった辺りを中心に分析し、布教方法や信仰形態を作り込んでいく。また、「効果的な布教活動」と「社会との摩擦」のバランスをコントロールすることも大切だ。

こうして見ると、本書は「正しい教祖になるための入門書」でもあるようだ。


【収録内容】
・「天理教」
・「大本」
・「生長の家」
・「天照皇大神宮教と璽宇」
・「立正佼成会と霊友会」
・「創価学会」
・「世界救世教、神慈秀明会と真光系教団」
・「PL教団」
・「真如苑」
・「GLA(ジー・エル・エー総合本部)」

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