武田邦彦『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』(洋泉社ペーパーバックス)

武田邦彦『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』
を読んだ。
例に漏れず3月25日の“たかじんのそこまで言って委員会”がきっかけである。実はその時点では特に買ってまで読もうとは思っていなかったのだけれど、梅田の旭屋書店を通りかかったときにふと目に留まってしまった。
何しろ、目立つ帯がかけられ、目立つ棚にズラリ並んでいるのだから、ああ、あのときのテレビのあれね、と思わず手に取るのが人情というものである。確かに環境問題の欺瞞を告発する話は面白かったし、流行にのるのも悪くはない。
この著者はたぶん、なかりどっぷり科学の人なんだろう。とにかく、目の前の事実というものを、単刀直入にぶつけてくる。これは実に分かりやすい。表現も極めて平易だ。図表やグラフも豊富で、証拠好きの期待にも十分応えてくれる。
ただし、ひとつだけ留意すべきは、科学的態度と論理的態度は必ずしもイクォールではないという点である。ここでいう科学的というのは、経験主義や実証主義的なものを指している。これは案外に重要なポイントだ。
何故なら、本書は冒頭第1章の1節目から、いきなり論理的ではないからである。これは決して間違っているという意味ではない。著者の主張が正しい可能性もあるけれど、違う可能性も十分にあるという意味である。
著者が示す科学的データは「ペットボトルの消費量」と「ペットボトルの回収量」と「再利用量」の年度毎の変化である。付されたグラフはまさに一目瞭然で、消費量と回収量はほぼ同じ角度で年々急増、再利用量は極めて微増というものだ。
平成5年は消費量が12万トン分別回収は始まっていない。平成8年には回収が始まっており、消費量が18万トン、回収量は0.5万トンとなる。これが平成16年になると消費量が51万トン、回収量は24万トンにまで膨れ上がっている。
こうした事実を元に著者は「ペットボトルの分別回収が進むと販売量、つまり消費量が増えたことがわかる」と書く。科学的には間違った記述ではたぶんない。ただし、論理的にはすこぶる弱い。相関関係と因果関係の問題が不明瞭だからだ。
示されたデータからわかることは、「分別回収が進む」ことと「消費量が増える」ことには何らかの相関関係がありそうだということだけで、分別回収が原因で、消費量増加が結果だという根拠はどこにもない。
例えば、消費量が増えたのは、ペットボトルが生産者、消費者双方にメリットが多かったためかもしれない。その結果、急増したペットボトルのゴミ問題が取り沙汰され、分別回収が推進されたのだとすれば、先の因果は逆転する。
誤解のないように書いておくけれど、ぼくはこの本の信憑性が低いとか、眉唾だとかいいたいわけではない。もしかすると、明示されていないだけで、分別回収⇒消費量増加という著者の説明にもちゃんと論拠はあるのかもしれない。
そもそも限られた紙幅で、これだけ完結明瞭な内容に仕上げようと思えば、すべての論拠を記述することなんてことは不可能だろう。先の例に限らず、計算や推定の道程に、論理的に不明瞭な部分が結構散見される。
つまり、そこはある程度ニュートラルな視点で読むべきだろうというのが、ぼくの率直な感想なのである。何しろ、著者の書き方があまりにも明快なために、スルスルと頭に入ってきすぎる。これはちょっと危ない。
また、利権がらみの糾弾にもなっているため痛快でもある。官に対する不信や、利権に対する嫌悪は、少なからず誰しもが持っているものだろう。そうなると、著者に肩入れする気持ちが、論拠の弱いところまで丸呑みにさせかねない。
そこは多少の注意が必要だと思うのだ。
とはいえ、ここに書かれている環境問題に関わる欺瞞の告発は、概ね納得のいくものばかりである。ただセンセーショナルなだけではない。「分別回収」が先か「消費量増加」が先かは判らずとも、圧倒的な再利用の少なさに変わりはない。
そもそもこの本に書かれている客観的、あるいは歴史的事実の部分だけを並べてみても、これまでマスを通して印象付けられてきた環境問題との落差を知るには十分だ。著者の見解を保留したとしても十分に読む価値がある。
ペットボトルはほとんど再利用できないしされていない。再利用には新しく作るより余計に石油が必要になる。猛毒のはずのダイオキシンによる患者はひとりもいないし、森林は総合的に見れば二酸化炭素を吸収しない。
温暖化で海水面があがって大変なことになるというトンデモ説が、実は朝日新聞のシミュレーション記事が発端だったというのも面白い。これはもう当たり前すぎることだけれど、北極の氷がとけても海面は上昇したりしない。
当たり前な事実から意外な事実まで、覚えのある話題ばかりで飽きない。
ただ、締めくくりの「本当の環境問題」に関するくだりは、少々問題ありかもしれない。著者は近い将来の石油資源の枯渇とそれに伴う食糧危機を危惧しているのだけれど、これはまあ、現時点では反論の声の方が大きいかもしれない。
石油資源の問題については誰にも100%なんてことはいえないにしろ、現状では枯渇しないとする説の方に説得力があるように思う。ただ、需要と供給のバランスで、安い石油を大量に使うなんてことはできなくなるかもしれない。
これはこれで苦しい状況になることは考えられる。この場合、次に石油の価格が下落するときは、石油の価値がなくなったとき、即ち、別の有力なエネルギー源が確保されたとき、ということになるだろう。
いずれエネルギー問題は予測の条件が流動的すぎてなんともいえない。
ちなみに、ぼく個人の環境に対する考えはまったく別の方向を向いている。
まあ、それはまた別の話である。
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comment - コメント
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