森奈津子『シロツメクサ、アカツメクサ』(光文社文庫)

森奈津子『シロツメクサ、アカツメクサ』(光文社文庫)森奈津子『シロツメクサ、アカツメクサ』を読んだ。

どうやら著者は控えめな奇人らしい。本の感想とは思えない書き出しだけれども仕方がない。文庫解説の1ページ目を読んでその印象はより強固になった。普通なら本を買う前に解説を読むのはあまりお勧めしないけれど、この解説の1ページ目は別だ。面白い。

ぼくの場合は『闇電話 異形コレクション』でこの著者の作品を読んでいた。それで名前を見知っていたのと、山本タカトの装画に惹かれたこともあって買ったのだけれど、読んでみるとそのとき収録の作品もちゃんと入っていた。

実をいうと、異形コレクションの収録作を読んだときは特別気に入っていたわけでもない。牡丹灯篭にホムンクルスとは古典的な!くらいにしか思っていなかった。なのにしつこく記憶に焼きついていたのは、ホラーアンソロジーの中にあって唯一笑える作品だったせいである。

「美少女復活」というのがその短篇で、これが明らかに異彩を放っていた。決してホラーらしくなかったわけではない。ただ、キレイな友情モノや人情系ホラーになるような題材を、モテない童貞男とホムンクルスでぶち壊すというハイブローな笑いに彩られていたのである。

それは例えば、楳図かずおや児島都の漫画に見られるような笑いに近いものかもしれない。こうした漫画に親しんでみれば、そもそもギャグと恐怖はかけ離れたものではなく、むしろ紙一重だということが解かる。その意味では、異色のようで実は正統なホラーだったのである。

この『シロツメクサ、アカツメクサ』には、ホラーや幻想寄りの短篇ばかりが集められている。この手のジャンルは、普通読者をのめり込ませでナンボである。にもかかわらず、何故かはまり込むよりは外側から眺めているような印象が強い。醒めているといってもいい。

ここにこそ、この著者の真骨頂があるように思う。

収録作品の幅は広いのだけれど、分かり易い人情話系の幻想ホラーなんかよりも、暗い自意識とエロの話だとか、一見馬鹿馬鹿しいスラップスティックの方が俄然イキイキとして見える。そして、ホラーとしてもそれらの方が完成度が高いように思えるのだ。

一般的に奇妙なもの、おぞましいもの、異常なものをこれでもかと繰り出しながら、でも、それって本当に変なこと?…とふいに読む者を立ち止まらせる。自分の内面の奥底を覗き込ませ、幻想に浸かり切ることを許さない。そんな毒を含んだメタな視線を感じさせる。

ある程度スレた読み手なら、このくらいではあまり驚かないかもしれない。各短篇の中で試みられている多様な仕掛けも、特段目新しいものばかりではないと思う。ただ、これらがすべてではないんだろうと思わせるに十分な個性を読み取ることはできる。

次は『西城秀樹のおかげです』辺りを読んでみようと思う。

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