篠田真由美『唯一の神の御名―龍の黙示録』(祥伝社文庫)

篠田真由美『唯一の神の御名―龍の黙示録』(祥伝社文庫)篠田真由美『唯一の神の御名―龍の黙示録』を読んだ。

シリーズモノの第3弾である。不死の主人公を生かして、遥かな過去を昔語りする趣向は、前2作よりも自由な物語的広がりを感じさせて面白い。シリーズが文庫化される都度読んでいながら、実は手放しで楽しめないでいたぼくとしては、今までで一番楽しめた1冊でもある。

前作が『東日流外三郡誌』という一種の偽史をモティーフにしていたように、今作ではゾロアスター教伝来説が取り入れられている。これは飛鳥時代の日本にゾロアスター教が流入していたというもので、松本清張が『火の路』でぶち上げた奇想が元になっている。

どちらも学術的には一顧だにされていない史料、仮説である。それだけに魅力的な伝奇的題材となり得る。少し前に講談社文庫から新装版が出た高橋克彦『竜の柩』なんかは、『東日流外三郡誌』をはじめとした偽書や偽史と呼ばれるものを効果的に取り入れた傑作だと思う。

そうしたトンデモ系伝奇の系譜を期待して龍の黙示録シリーズを読むと、これは完全に肩透かしを食らう。この手の史料、仮説はあくまでも物語に供されるモティーフとして利用されるだけで、そのものについて考察がなされるわけではない。

なので、拝火教といった字面からこれがゾロアスター教のことだと分からなくても、善悪二元論的世界の両極、善神アフラ・マズダや暗黒神アンラ・マンユを著者の完全な創作だと思って読んだとしても、作品の面白さが減ずる心配はまったくない。

かように宗教色の濃いシリーズではあるけれど、これは、愚かな人間が運用する宗教なんかに人を救うことはできない、という否定的な宗教観に彩られた作品でもある。必然的に、愚かなる歴史の再確認といった色を帯びることになる。テーマは重い。

高邁な精神の持ち主ほど無念の最期を余儀なくされてきた歴史を、不死の吸血鬼が自らの苦悩と共に語る。納得のいく組み合わせである。現代を舞台にした前2作より外伝的な今作の方が面白いのは、テーマとキャラクター特性の相性が俄然良いからだろうと思う。

なんといっても、このテーマ性こそが作品の命である。もちろん、ぼくにとって、という注意書きは必要かもしれない。これが薄れると、ただのお耽美になってしまう。正直いって、典型的に耽美系なキャラクター造形は食傷モノだし、描写にだって味も何もあったものじゃない。

戦略的なキャラ設定なのかもしれないけれど、ちょっとばかりアカラサマにすぎる。ネットの流行り言葉でいうなら「腐女子」向けに最適化されすぎだ。ロリとショタとメイド属性をあわせもつサブキャラに到っては、出てくるたびに恥ずかしい思いをする。

今後ただのお耽美吸血鬼小説にならないことを願って止まない。

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