野中ともそ『宇宙でいちばんあかるい屋根』(角川文庫)

野中ともそ『宇宙でいちばんあかるい屋根』(角川文庫)野中ともそ『宇宙でいちばんあかるい屋根』を読んだ。

ああ、こういうのが流行りなんだなと思う。

とにかく何かを抱えた人やら家族やらが登場して、けれども、そんなことは何も特別なことじゃないんだという顔をしている。今の時代、みんな多少壊れているくらいが当たり前だということになっているらしい。それくらいの方が設定としてリアルなんだろう。

ストレスとかリストラとか鬱とか不倫とかセックスレスとか家庭崩壊とか虐待とかDVとかイジメとか精神障害とか理由なき暴力とか不治の病とかなんだとか、とにかく暗い要素にはことかかない世の中だから、ネタとしてはよりどりみどりである。

主人公が比較的ノーマルな女子中学生ということもあって、この作品ではそこまで極端な負の要素はない。それでもやっぱり、いくつかの典型的な家族の問題を扱っている。それは主人公と継母の関係であったり、幼馴染のお姉さんの難しい恋愛の問題だったり、元カレの奔放な母親の問題であったりする。

あえてこんなありふれた問題がひとつも出てこない方が、新しい考察が生まれそうな気もする。けれども、話に幅を持たせるにはあった方が便利だろう。それに、この作品の場合は、「壊れてるくらい当たり前」という前提が巧く利用されてもいる。

キーパーソンとなる老婆に謎が生まれるのである。

主人公の少女が星ばあと呼ぶその老婆は、自分は空を飛べるんだと主張する。そしてやたらと屋根に詳しい。ここで読者は迷うことになる。素直にファンタジーとして受け止めるべきか、それとも孤独な老人の虚言妄想の類ととらえるべきか。

そもそも主人公の少女がもっともファンタジーを信じていない。空飛ぶ老婆を信じる中学生なんてものは、いくら小説の中でも存在し得ないのである。だから、ラストで星ばあの秘密が明かされるまで、読者はこれがファンタジーなのかどうかさえ分からない。

正直にいえば、ラストは多少ご都合主義に見えなくもない。エピソードとしてはお約束の組み合わせでしかないともいえる。星ばあの孫が判明するくだりから特にその印象は顕著になる。ただ、星ばあの秘密も含めてキレイにまとまっていることは確かだ。

たいていの出来事が落ち着くところに落ち着く中で、ひと握りの不思議を残す。ああ、こういうのが流行なんだなと、もう一度思う。比喩としてのファンタジーではない。空飛ぶ老婆は何かを象徴してはいない。ただ、そういう役割を負っているに過ぎない。

みんなそれぞれ色々あって大変だけど、なんだかちょっぴり良いこともあって、ちょっぴり切ない別れなんかもある。周りをちゃんとみれば、決して悪いことばかりじゃない。辛いときはひと息ついてみる。そしてとにかく、最後にはほんのり前向きになれる。

そんな話が読みたいときは、誰にだってあると思う。

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comment - コメント

先日はTBありがとうございました。
lylycoさんの感想を読んでこーゆー
とらえ方もあるのねと思わされました。
面白かったです( ̄∠  ̄ )。

スズモモさん、コメントありがとうございます。
どうも自分の感想を読み返すにつけ、こりゃあこの本のことを語っているようには見えないなぁとか思ってしまいました。素人書評のなせる技ですかね。
スズモモさんが気に入ったという『カチューシャ』にも興味津々なのですが、何しろ単行本買い控え中の身。文庫待ちということで、読むのはまだしばらく先になりそうです。

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