新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー』(ハヤカワ文庫)
新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー』を読んだ。
珍しくSF方面の本である。といっても、SFよりは青春小説といった方がいいかもしれない。作中にも書かれている通り、SFの話題は沢山出てくるけれど、内容はそれほどSFらしくもない。別にタイムトラベルの顛末が語られるわけではないのである。
時間跳躍能力を発現した少女を巡るひと夏の物語。
将来に対する不安、焦燥、諦念、何が欲しいのかも、何をしたいのかも分からない。そのことについて真面目に考えることさえ延々先延ばしにしてしまう。頭でっかちで傲慢で臆病、極めて当たり前な高校生たちの青春群像。
そんなありふれた物語が、独特の持って回ったような、どこかパッチワークじみた言葉で語られる。視点人物を演じる主人公の屈託が、そのまま地の文に活かされている。お陰で思わせぶりな表現が多いのが欠点といえばいえるかもしれない。
性向としてはライトノベル風なんだと思う。理屈っぽくて、ニヒリスティックで、あまり友達にしたくないタイプの少年少女ばかりが登場する。その考え方や行動を許容できるか否か。そこがこの物語を楽しめるかどうかの分水嶺かもしれない。
主人公を始めとするメインキャストの面々は、集団としては個性的かもしれないけれど、個々にはかなりの没個性である。時間跳躍者となる少女以外は全員ブッキッシュで、勉強ができ、賢しくて、ルックスに恵まれている。
衒学的といわれても否定できないような引用や、知的遊戯とでもいうような理屈ばかりの会話はあまりにも空虚で表面的だ。彼らの会話はディスコミュニケーションを前提としたコミュニケーションなのである。
それは正しくイマドキの友人関係の類型なのかもしれない。
一見ドライでイマドキな関係は、いまさらいうまでもなく過剰な自己防衛の結果である。そんな思春期の殻を少しずつ脱ぎ捨てていく。恋愛、友情、家族関係やなんかを通じてその過程描くのがビルドゥングスロマンの王道ということになろう。
この本が成長のトリガーとしているのは、多分、孤独である。タイムトラベルは孤独を実感させるための道具でしかないのかもしれない。そして、孤独を恐れる心からの開放が主人公たちを次のステップへと踏み出させる。
ひとりの少女の極個人的な選択が彼らを閉塞から救い出す。
これはそういう物語なんだろうと思う。
posted in 06.07.18 Tue
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