乙一『ZOO 2』(集英社文庫)
乙一『ZOO 2』を読んだ。
単行本の中から映像化されなかった6篇が収録されている。というような書き方をすると、何やら『ZOO 1』よりもつまらないような印象を与えるから不思議だ。一応断っておくけれども、特に完成度が1に比べて低いということはない。
ただ、映像化にはあまり向いていないかもしれない。
せいぜいその程度のことである。例えば、いかにもミステリ的な叙述を楽しむ「Closet」なんかは、映像化して意味があるとは思えない。文庫版だと5行目で仕掛けが見えるようになっているのだけれど、あれを映像で自然に表現するのは至難だ。
また「冷たい森の白い家」に見られる美醜のコントラストや、「神の言葉」のどこか冗談めいた惨劇は、本当に巧く映像化してくれるなら見てみたい。ただ、少しでもチープな画になると、きっとすべてが台無しになってしまう。
やっぱり、この手のお話は妄想力で愉しむのが一番だ。
それにしても、この人の文体は振れ幅が広い。文章の雰囲気というか表情の変え方が、厭味になる寸でのところで踏ん張っていて、著者の器用さが垣間見える。これはイマドキの若い小説家たちに共通の傾向のようにも思う。
文体がコピーライティングに近い戦略性を持っている。
その意味では『GOTH―リストカット事件』や『ZOO』は、良くも悪くもイマドキありがちな傾向の作品だと思う。文体、題材、仕掛けなんかを冷静に組み合わせて、商品としての完成度を基準に作品を書きあげる。職業作家の自覚が強い。
だから、ぼくたちは用意されたアトラクションを、何も考えず、存分に愉しめばいい。もちろん、作家のオリジナリティがないがしろにされているわけではない。あくまでも戦略的に発揮されているというだけのことだ。
ウェルメイドな小説を安心して愉しめる、そんな1冊だ。
posted in 06.06.01 Thu
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