岡崎隼人『少女は踊る暗い腹の中踊る』(講談社ノベルス)
岡崎隼人『少女は踊る暗い腹の中踊る』を読んだ。
第34回メフィスト賞受賞作である。どうやら舞城王太郎風だというのが一般的な感想であるらしい。佐藤友哉が入っているとか、浦賀和宏的だとかいう意見もちらほらと目する。要するにメフィスト賞ながら、モロにファウスト系の正嫡なのである。
ファウストというのは、酷く歪んだヲタク系作家を兄弟誌メフィストから連れ出して創刊された異端の文芸誌である。いわゆるライトノベルとの親和性も高いようだ。今最も売れている文芸誌であり、最もイラスト含有量の多い文芸誌でもある。
それにしても、ここまで特定の色が着いてくると、そろそろバリエーションがないと苦しいんじゃないかと思う。食うたびにうな重では胸焼けもする。舞城や佐藤や浦賀は、それでも特上だったから、時間を置けばまた食べたくもなった。
けれども、今度のこれはあからさまな縮小再生産である。
講談社の文三と呼ばれる部署がファウスト系作家養成機関と化し、ついに量産体制に入ったように見えて仕方がない。この作品にしても、もしファウストに長編の賞があったらこちらから出ていたんじゃないかと思う。
ただし、先駆者たちのレベルではまだまだない。
ペドファイル、近親相姦、トラウマ、心の闇、過剰な猟奇性などなど、こんなものがどれだけ注ぎ込まれていても、この本には恐怖も、興奮も、焦燥も、同情も、嫌悪すらもほとんど感じられない。どれも単なるガジェットに過ぎないからだ。
主人公がすべてをかけてひとりの少女を守る。そんなリリカルな話であるにも関わらず、まったくシンパシィを感じられないのである。全体にのっぺりしていて、心理にも物語にも起伏がないせいかもしれない。これでは感情が乗らない。
それでもテンポだけは悪くないから、読むに苦痛ということはない。ただし、文章もあまり巧くはない。"目についたものから片っ端に放り込む"なんて変な日本語が書かれていたりもする。もちろん、日本語が変だからツマラナイということではない。
たとえば舞城には過剰な愛が、佐藤には過剰な自意識が、浦賀には過剰な内向性があった。それは十分に共感可能で、しかも刺激的だった。この作品には多分、そのすべてがある。あるにもかかわらず、すべてがどこか空々しい。
もしかすると、そうしたありきたりな感情を放棄した先にある作品なのかもしれない。そこにある何かを明らかにするために、あえてリアリティもサスペンスもカタルシスも捨てて、共感不能なキャラクターばかりの物語を世に問うたのかもしれない。
ただ、ぼくはまだその面白さを上手く理解できないでいる。
posted in 06.06.26 Mon
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- 06.06.28岡崎隼人『少女は踊る暗い腹の中踊る』
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