池永陽『コンビニ・ララバイ』(集英社文庫)
池永陽『コンビニ・ララバイ』を読んだ。
あざといまでの人情物だ。それがどういうわけだか好もしい。登場人物の誰もがありふれた、けれども深刻で誰にも肩代わりできない傷を負っている。そんな話はもうお腹一杯だと、読み始めてすぐに思った。けれども、そんな感想はすぐに霧消した。
ありふれた絶望が、ありふれた感傷が、ありふれた愛憎が、ありふれたエピソードにのせて語られる。それでいい。人情話とはそういうものだ。あとは語りの腕ひとつ。登場人物に愛を感じられるかどうかにかかっている。その点、著者の腕に狂いはない。
それこそがこの本の最大の魅力といっていい。
どんなにみっともなくても、どんなに情けなくても、その人の幸せな姿を見たい。どうか、幸せな結末を用意してあげて欲しい。読めばきっとそんな風に思うはずだ。著者はもちろん、彼らに安直で甘い人生を用意したりはしない。描かれるのは彼らの人生のほんの一部だ。そこには始まりも終わりもない。彼らのこれからが少しだけ変わるかもしれない。そんなできごとが、丁寧に、けれども深い追いすることなく描かれている。
その切り取り方は絶妙という他ない。
人はきれいなばかりでも、汚いばかりでも、強いばかりでも、弱いばかりでもない。この本は、そんな当たり前のことを思い出させてくれる。
posted in 05.07.09 Sat
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