志村史夫『こわくない物理学―物質・宇宙・生命』(新潮文庫)

志村史夫『こわくない物理学―物質・宇宙・生命』(新潮文庫)志村史夫『こわくない物理学―物質・宇宙・生命』を読んだ。

まず、これは物理学についての本ではない。物理学的な知識をもった人が自然の驚異にアプローチする。その姿をダイジェストで垣間見るための本である。物理学に関する突っ込んだ記述がないという意味では、確かに文系でも「こわくない」内容といえる。

シロウト向けに書かれた本で、内容そのものはまったく難しくない。これまでに自然科学が解き明かしてきた成果を、ごく簡単に紹介しながら話は進められていく。お陰で、漠然とした聞きかじりの知識を再確認したり、これまで知らずにきた科学的自然の姿に感心したりと、ちゃんと知的好奇心を刺激する内容になっている。

科学者というのは神秘に突き当たるための職業なのかもしれない。

この本を読み通した感想だ。著者自身もあとがきに書いている。「科学」をやればやるほど、「科学」の限界を実感し、「宗教心」が芽生えるのも自然な気がする、と。念のために書いておくけれど、ここでいう「宗教心」は必ずしも既存の宗教に帰依する心をさしているわけではない。最先端の知の先には人知を超えた何かしかない。それは言葉の上からも自明だ。

それは安直な神秘思想とは一線を画すものだ。

そんな思想のもとに書かれた一般書だから、援用されるのは自然科学の知識だけに止まらない。多分に哲学的な記述が含まれている。古来、哲学者と科学者の間に区別などなかったのだから、これは別に珍しがるようなことではない。科学を支えているのはロマンに満ちた直感ではないかとさえ思う。

生命の起源、宇宙の起源を追い掛けながら、人間の知的冒険の軌跡を手軽に概観する。答えなんてものはない。だからこそ魅力的な本だと思う。難点をいえば、文章が少しばかりスマートじゃないことくらいだ。とはいっても、もともと作家でもない人が書いた本だ。表現がなかなか端的にならないのは、科学者らしい真摯さの表れともとれる。それに、端的でない分、知を楽しむヒントがたくさん詰まっている。ただ、疲れているときの読書には向かないかもしれない。

ともあれ、飽くなき好奇心こそが神秘の扉を開く鍵であるらしい。

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