光原百合『十八の夏』(双葉文庫)
光原百合『十八の夏』を読んだ。
表題作をはじめ4編を収録した短編集だ。著者はもともと童話や絵本なんかを書いていた人らしい。だからなのかどうか、文章はとてもやわらかい。1998年に出た『時計を忘れて森へいこう』は、ぼくの中に心地よい印象を残している。東京創元社という推理小説にうるさい版元から出たそれは、端正なミステリでありながら、自然と人の心を中心に据えた優しい作品だった。
光原作品にはよく「癒し」という言葉が使われる。
もちろん、それが間違っているとは思わない。何に癒されるかはその人の自由だし、この著者の文体や視点に優しさを感じるのはごく自然な感性だと思うからだ。ただ、妙な偏見をもって読んだのではもったいないとも思うのだ。
たとえば、彼女の作品には、意外に暗い影を背負ったものが多い。けれども、その節度を弁えた語りや、善良な登場人物たち、着地のしなやかさが暗雲を払拭し、やわらかな読後感を与えてくれる。それはどんな甘い印象を残す作品にも言える特徴だと思う。
ただ、作品によってその匙加減が違っている。光の部分がより多く語られる場合もあれば、影の部分に重心が傾くこともある。そのあたりの好みが、作品ごとの好き嫌いを生むのかもしれない。ちょっとした匙加減で、それほどに印象が違ってくる。ただし著者の姿勢に揺らぎはない。
凛として真摯な作風。ぼくはそんな風に思っている。
posted in 05.06.11 Sat
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