盛田隆二『サウダージ』(角川文庫)

盛田隆二『サウダージ』(角川文庫)盛田隆二『サウダージ』を読んだ。

初めて読んだけれど、随分と唐突な印象の文章を書く作家だ。文章の始まりも、終わりも、場面の転換も、回想と現在の繋ぎ目も、そのことごとくが唐突だ。無駄や遊びが極端に少ない。酷く説明を嫌うタイプの作家なのかもしれない。サービス精神旺盛すぎる作品に慣れている人には新鮮に写るか、物足りなく感じるかのどちらかだろう。

本当に大事なことは書かない。

それがこの作品最大の美点だと思う。理由を言葉にすると、途端に絵空事になってしまう。どんな言葉をあてても本質からかけ離れてしまう。そういうことは多分ある。いくらでも書けそうなネタがごろごしていても、そこはあえて掘り下げない。掘らずに育てる。掘らないからこそ、読者の心の中でそれはムクムクと育っていく。

とても不器用な人たちが不器用に求め、傷付け合いながら自分のあるべき姿を模索する。今となってはあんまり馬鹿馬鹿しくて、殆どタブーになった感のある「自分探し」。感触としてはそれに近い。

ただ、この著者はキャラクターに内面を語らせない。

一見淡々とした語りと、その印象に反した内容のいじましさが、とても良い効果をあげている。それらしい心情吐露を満載にして読者をカタルシスに導く手もあっただろう。そうあっておかしくない内容だ。けれども、あえてそうしない。その選択はこの場合よくあたっている。読者に押し付けではない、自分だけの印象を残すことに成功している。

読後に残るのは、不思議とそこに書かれなかった心象風景だ。

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