鷺沢萠『さいはての二人』(角川文庫)

鷺沢萠『さいはての二人』(角川文庫)鷺沢萠『さいはての二人』を読んだ。

ぼくは作家論的な話が苦手だ。いくら作品を読み込んだところで、そこから浮かび上がる作家像なんて多かれ少なかれ恣意的なものだと思うからだ。だから、昨年この人気作家が自殺したときも、特に追悼と銘打って平台に並べられた著作を手に取る気にはならなかった。意識して避けたわけではない。

そんなことよりも、どうして…という思いの方が強かった。

目の前の本を手に取るか否かは単なる巡り合わせでしかない。作品に触れる切っ掛けが著者の死だったとしても、それを非難するつもりはさらさらない。

今回読んだ角川文庫版の帯には「鷺沢萠最後の恋愛小説」とある。「恋愛」と「切ない」をセットにすることでどれほどの効果が得られるのかは知らないけれど、この小説集にこの謳い文句はないと思う。著者の作風を知っている人はまだいい。けれども、この帯に惹かれて初めて鷺沢作品に触れる読者を思うと、どうも罪作りな気がする。

はっきりいってこれは恋愛小説集なんかじゃない。

恋愛を扱っていないわけではないけれど、感触としては例えば浅田次郎の超ベストセラー『鉄道員(ぽっぽや)』なんかに近いと思う。それこそ解説にある北上次郎の言葉を借りれば「人情話」ということになるのだろう。恋愛小説なんて言われるよりはこちらの方がずっと納得できる。ちなみに、集英社文庫版『鉄道員(ぽっぽや)』の解説も北上次郎だったりする。

この本には表題作の他に2つの短編が収録されている。3編とも主人公はそれぞれに厳しい境遇に立たされていて、逃げてみたり足掻いてみたり結構みっともないこともする。そこには人の弱さが書かれている。けれども、みんな最後にはしっかり前を向いて歩き出す。ちゃんと希望が描かれている。3人ともある境遇の人から生きる力をもらうことになるのだけれど、その趣向は未読の人の楽しみを奪うことになるのでここでは伏せておく。

それにしても、こんな話が書ける人がどうして…と読んでみて再度思わずにはいられない。

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