香山リカ『<私>の愛国心』(ちくま新書)

books050509.jpg香山リカ『<私>の愛国心』を読んだ。

この本の美点は、何といっても分かりやすいことだと思う。説明のための事例が幅広く、比較的身近なせいだろう。その殆どがマスコミで大きく報じられたものだから、大抵の人は聞き覚えがあるはずだ。論旨が明快で、終始同じ主張を手を変え品を変え説明しているので、誰が読んでも著者の懸念は理解できると思う。

バラバラに見える出来事にある一定の視点を与え、原因をひとつに収斂していく手法は、何やら推理小説でも読んでいるような面白さがある。中には突きつけられた不可避の不安因子として「牛丼騒動」を挙げるなど少々牽強付会なところもあるけれど、概ね納得できる内容だ。シンパシーを覚えるかどうかは別として、見所の多い見解だと思う。それに、これが重要なのだけれど、読むことで考える切っ掛けになる。

タイトルに愛国心とあるけれど、特にナショナリズムについてだけ書かれた本ではない。むしろ、ナショナリズムに直接触れている箇所はそれほど多くない。どちらかといえば、今時のナショナリズムを含む様々な病的(と思われる)現象について、その原因を追究し、処方箋を書いてみようじゃないかという内容だ。

ここ数年の象徴的な出来事と、そこに関わる人々の奥底に潜む病理。そして、そこに表れた歪みが国際社会に落とす暗い影。それらをエアクッションの気泡をひとつひとつ潰すように丹念に証明していく。その論旨が明快であればあるほど読む方は平常心でいられなくなる。かなり怖い。自分に引き寄せ、覚悟し、身の処し方を考えずにはいられない。

こういう本をいざという時のために読んでおくことは無駄ではないと思う。心の準備が有効な場合もあるはずだ。

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