森巣博『越境者たち』[全2巻](集英社文庫)
森巣博『越境者たち』を読んだ。
圧倒的だ。まさに唯一無二。そもそもこれを小説だと思って読むこと自体困難だ。殆ど著者の体験であろう壮絶な物語が、圧倒的なリアリティを持って描かれている。
文章はあまり巧いとは思わない。けれど、独特の文体に慣れればさほど読み難いものでもない。そんなことよりも、これだけの質量を持った物語になど、そうそうお目にかかれるものではない。その魅力は欠点を補って余りある。
森巣博という人は元来文筆の人ではない。博奕打ち。それも世界を股にかける筋金入りの博徒であるらしい。日本を離れ三十余年、オーストラリアを根城に世界中を転戦。かなり特殊な経歴の持ち主だ。とはいえ、好悪はあるにせよ、無邪気に開陳される人生哲学は決して突飛なものではない。実に真っ当だ。
賭場というのは極端で濃密な場所だ。伊達に「賭金」を「たま」と呼んでいるわけではない。多くの博徒がまさに命(たま)を賭けてその凄惨な人生を散らしていく。
人間はどこでも同じだった。
「たま」を張り合う極限の世界をその目で見、体験し、生き長らえてきた著者の言葉には説得力がある。その衒いのない人間観は決して悲観的なものではない。そして、もちろん奇麗事であるはずもない。
場違いな言葉だろうと自覚しつつ敢えて書く。
この小説はきっと著者一流の人間讃歌なんだと思う。
posted in 05.05.13 Fri
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