ジャック・ケッチャム『オフシーズン』(扶桑社ミステリー)

ジャック・ケッチャム『オフシーズン』(扶桑社ミステリー)ジャック・ケッチャム『オフシーズン』を読んだ。

ケッチャムの名前を聞いただけで著作のタイトルが浮かぶような人は、とんだ物好きに違いない。最初に断っておくけれど、ぼくはこの本を人に薦めたりするつもりはない。親切が仇となって正気を疑われたのでは割に合わないからだ。

例えばリチャード・レイモンに友成純一。二人の名前と作風に心当たりのある人なら、ケッチャムを避けて通ることは許されない。いや、ぼくなんかが喧伝するまでもなく読んでいて当然だろう。たとえ今は知らずとも、自然に巡り合う日がきっとくる。当然のようにくる。彼はその手の人が素通りできる作家ではない。

タネを明かせば、彼らはみんな狂気のスプラッタ作家なのだ。

うむ。それでなくても人に優しくないブログだというのに、益々閑古鳥を鳴かせるようなことを書いてしまった。弁解するわけではないけれど、そもそもぼくはラブストーリーに涙し、コメディに腹を抱え、ヒューマンドラマに心振るわせる至極真っ当な一般庶民だ。ただ、血塗れスプラッタにも理解を示す太っ腹な感性の持ち主なだけで。

ああ、思わず自画自賛してしまった。

それはともかくとして、だ。とにかく、ケッチャムは最高にオフビートかつスプラッタな作風で、最悪の読後感を約束する稀有な作家のひとりなのだ。

彼は70年代に噴出したスプラッタムーヴィーやモンドムーヴィーのエッセンスを思う様その作品に注ぎ込み、人間性の他愛のなさを容赦なく白日のもとに晒し首にして見せる。性と死。エロとグロは常にセットと相場は決まっているけれど、ケッチャム作品においてはセクシー描写なんて欠片も頭に残らない。それこそお約束という名の形式美でしかない。そういう意味では安心して楽しめるジャンル小説ともいえる。

万一この記事を読んでケッチャムに手を出そうなんて物好きがいるといけないので、老婆心ながら忠告しておく。この作家に限っては想像力を逞しくし過ぎちゃいけない。特にこのジャンルに不慣れな人は、しっかりと感覚に蓋をして、恐る恐る覗き見るくらいから始めた方がいい。ただし、そこまでしてケッチャムにチャレンジし、結果、深刻なダメージを精神に負ったとしても、ぼくは何ら責任を持てない。

もう一度書いておく。ぼくはこの本を人に薦めたりはしない。

しないけれども、例えば“スナッフ”“悪魔のいけにえ”“食人族”“オールナイトロング”といった玉石混淆の映画たちを、旺盛な怖いもの見たさに突き動かされて貪るように観た経験がある人には、とりあえず、『隣の家の少女』をお薦めしておく。

読み終えて、つくづく最悪な作家だと思い知るはずだ。

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