福井敏晴『亡国のイージス』[全2巻](講談社文庫)

福井敏晴『亡国のイージス』(講談社文庫)福井敏晴『亡国のイージス』を読んだ。

著者は“ローレライ”“戦国自衛隊1549”“亡国のイージス”と作品の映画化が相次ぎ、近頃何かと話題の作家だ。ぼくは世評というものを半ばほどは信用している。ここまで人気があるというのなら、そうそうつまらないはずがない。

日本推理作家協会賞日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞のトリプル受賞は伊達じゃなかった。確かにガンダム世代の刻印は顕著だし、文章に読み易さ以上の魅力はない。けれども、たとえエンターテイメントが過去作品のサンプリングでしかないのだとしても、それを生み出すには才能も技術も必要なはずだ。福井敏晴にはそれがある。そう思わせるに十分な傑作だ。

ぼくは軍事モノには基本的に余り興味がない。『沈黙の艦隊』だって一度も読んだことがない。自衛隊についての知識もこれといってないし、国防ひいては国の主体性について突っ込んで考えたことも全然ない。けれども、そんなことは全く問題ではなかった。御託はいらない。

これはよくできた映画やアニメを観ているような小説だ。

文体で読ませる作家ではない。文章は物語るための記号でしかなく、読んでいるという意識すら希薄だった。緻密な背景描写や肩入れし過ぎではないかと思うような内面描写に埋め尽くされるうち、本来リアリティなど持ち得ないような多彩な登場人物たちが生きて動き出す様は圧巻だ。

カタルシスがそこいら中に転がっている。

シラケ世代なら、ガンダム世代なら、オタク世代なら、日本人なら、これを読んで涙を振り絞れ。文庫本を握り締めて電車で嗚咽しろ。冷笑的になる必要なんかない。映画を待つな。長さに臆することはない。素直に読めば誰でも楽しめるだけの要素が詰め込まれている。ぼくたちはただエンターテイメントを全面的に受け入れればいい。

福井敏晴は希代のストーリーテラーに違いない。


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福井敏晴『亡国のイージス(上)』(講談社文庫)
福井敏晴『亡国のイージス(下)』(講談社文庫)

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